スピリチュアリズム 

ちょっとスピリチュアルな
短編小説

第28話
「先手必勝」

それは私が中一の時、突然 始まった。

ある日、クラスのみんなが何やら自分の方を向いてヒソヒソと話していることに気が付いた。
小学校から同じクラスだった里奈に訊いてみた。

「 何話してるの?」
「 別に 」

そう言ってみんな散らばった。
自分は何か悪いことでもしたのだろうか。
1週間たったころ、担任から呼び出された。

「 お前なあ、学校の行き帰りに派手なヘアピン付けてるんだって?
それって違反なの知ってるだろ?
まあ大したことじゃないし、普通なら見て見ぬふりをする程度のことだけど、何人かが先生の所に言いに来たから無視できなくてなあ。
それで一応注意しておこうと思って。
思春期ってえのは、自分のことは棚に上げて自分以外のヤツの悪いところばかり目につく時期なんだ。
お前はちょっと可愛いから、目立って嫉妬の対象になりやすいのかもな。
まあ、気を付けるに越したことはないからな。」

私はその日からヘアピンを付けるのをやめて、とにかく目立たないように気を付けた。
しかし、一度流れが出来てしまうと そう簡単に流れを変えることはできない。
ヒソヒソは続いた。

居心地がすこぶる悪い。
どんどんと自分の居場所がなくなっていくように感じた。

ある日の昼休み、里奈が歩いてきて 言った。
この頃になると、優しくて大人しかった里奈はグループを作り、そのボス的存在のようになっていた。

「 愛依、いい気になってんじゃないよ。
目障りなんだよ。
愛依ってさあ、同性から嫌われるタイプなんだよね。」
突然の言葉に唖然として、返す言葉が出なかった。

・・・ 私、いい気になんてなってないのに・・・
・・・ どうしてあんなこと言うんだろう・・・

里奈とは今まで普通に話していたのに、ヒソヒソを境に全く話さなくなってしまった。
すると、その日から イタズラが始まった。
それはパッと見ただけでは誰も気が付かないやり方だった。

登校すると下駄箱の奥にメモが置いてあるのに気が付いた。
  バカ!
  ブスは氏寝!

そうしたメモは下駄箱の中だけでなく、教室に行くと引き出しの中、それも奥の方に入れてあったり、家に帰ると教科書の間に挟んであるのを見つけたりしたこともあった。

・・・ これは単純なイタズラじゃない。
・・・ 苛めかも。

小さなメモだけど、かなり心に突き刺さって頭から離れなくなった。
クラスでは誰も自分と口をきいてくれない。
おはよう、と挨拶をしても横を向いて隣にいる人とヒソヒソ何かを言うだけ。
挨拶を返してくれない。

自分は楽天的で小さなことには気にしない方だったのに、どんどん心が暗くなり、さすがに前を向いて歩けなくなってしまった。
家でも口数が減り、食欲も減った。

さすがに母親も、
「愛依、何かあったの?」
「ううん、別に・・・」
心配をかけたくないということもあって、そう言うのが精いっぱいだった。

ヒソヒソはゆっくりと心を蝕んでいった。
ヒソヒソなんていうイジメは立証しにくい。
置きメモには自分の名前が書いてないから、証拠にならない。
だから、自分が学校を休んでその原因を言ったとしても、誰もが否定するに違いない。

学校に行きたくない。
朝起きると頭痛がするようになってきた。

当然 毎朝起きるのが遅くなってきたので、ついに母親が
「愛依、何があったか話してごらん。」
「頭が痛いから、学校に行きたくない。 それだけだよ。」

このままでは自分がどうにかなってしまいそう。
思い切って担任に相談してみた。

「 そうかあ、続いていたんだなあ。
最近 下ばかり向いている感じがしていたから気になってたんだ。
鎮火させるには、自分から話しかけるのが一番なんだけど。
先手必勝だ。
できるか?」

「 最初 挨拶でもと思って言ってみたけど、誰も挨拶さえしてくれないんです。
きっと、何言っても横向いてヒソヒソ話すだけで、結局無視されるだけです。」

「 うーん、そうかあ、一応やってみたんだなあ。
でも、自分から突破しないと終わらないからなあ。
とりあえず、もう一度やってみろ。
先手必勝だぞ。」

そう言われたが、そんな勇気は持てるはずもなかった。
でも、担任が気にかけてくれていたということが小さな支えになった。

それから1週間ほどして、朝のホームルームの時間に担任がグループのボスともいえる里奈に言った。

「 里奈、お前 愛依を助けてやってくれてるんだってな。
お前っていいやつだなあ。
これからも みんなを助けてやってくれよ。」

そう言い終わると担任は私の方をチラッと見た。

(え〜〜〜〜っ!?
 私いじめられているんだけど・・・
 助けてもらってなんかないんだけど・・・)

その日の帰り道の途中で、里奈が1人で待っていた。
また何か言われるんだろうか。
里奈はバツが悪そうに寄ってきて、

「今までゴメンね」

それだけ言って走って行ってしまった。
私はあっけにとられた。

すると不思議なことに、翌日から置きメモがなくなり、ヒソヒソも数日たつ頃にはまったく無くなっていた。
それからというもの、自分を敬遠していたかつても友人が話しかけてくれるようになった。

「 今までゴメンね。
里奈から言われたわけじゃないけど、雰囲気でそうするしかないって思ったものだから。」

「 ううん、全然大丈夫。
わかってたから。」

里奈とはあれっきり話はしていない。
目もほとんど合わせていない。
まあ、仕方がないかな、と自分で自分に言い聞かせるしかなかった。

何だかスッキリしないところはあるけど、一応担任には適当にお礼を言っておいた。

2年生になるとクラス替えで里奈とは別のクラスになったので、ホッとした。

3年生になり、行く高校も決まり、卒業式を迎えることになった。
だけど、このまま卒業してしまっては一生しこりが残ってしまう。
卒業式の前日、思い切って里奈に話しかけてみた。

「 今更なんだけど、あの時どうして・・・?
私 何か悪いことしたのかなあ。
何をどう考えてもわからないから教えて欲しいんだけど。」

「 エッ? わかってなかったの?
わざとじゃなかったってこと?
先に私を無視したのは愛依の方だったんだよ。
私が好きな男子と愛依が楽しそうに話をしていてさ、私が近くに行って話しかけたら(あとでね)って言って そのまま無視されちゃったんだよ。
愛依もあの男子が好きなんだ、だから私に取られたくなくて私のことを無視したんだ、って思ってた。
愛依は男子にモテたくてヘアピンしたり、可愛いミニカバンを持ってきたりしてると思ったら腹が立ってきて、それでほんの少しだけ虐めてやろうと思ったらズルズル長引いてしまって引くに引けなくなっちゃった。
だけど、1年の時の担任があんなこと言うもんだから、私どうしていいかわからなくて、ゴメンしか言えなかった。
あれからなぜか私は男子にも女子にもモテはじめたから、これってケガの功名ってヤツ?」

「 エエーッ!
そういうのケガの功名っていうの?」

そう言いながら2人して笑った。
ずっと燻っていた思いが、一気に晴れた!

あの時の担任が 「先手必勝」 と言ってくれたことが、卒業間近にやっと ちゃんと実行できたような気がした。
翌日の卒業式が終わって、あの時の担任の所に走って行った。

「 先生、有難うございました。
ちゃんとしたお礼を言ってませんでした。
昨日やっと里奈と話ができて、お互いのわだかまりが消えました。
遅くなったけど、先手必勝、やっと実行できました。
先生、先手必勝って、もしかしたら人生の極意ですか?」

「 そうだな、極意かもな。
高校に行っても頑張れよ。」

「 はい!」

里奈とは卒業式以来会っていないけれど、きっと高校でもリーダー風をふかしているんじゃないかな。
そう思ったら、里奈の笑っている顔が目の前にふわっと現れて消えた。

― end ―

2019 / 09 / 01


 

 

 










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