スピリチュアリズム 

スピリチュアル・カウンセラー
天枝の日誌

第17話
「 趣味 」

カウンターの内側で天枝がコップ類を丁寧に拭いていると、友達とコーヒーを飲んで雑談していた女性が急に席を立った。
飲食店ではごく当たり前の光景だが、天枝はなぜか気になって彼女を目で追った。

その女性はトイレに行き、数分後に席に戻った。
天枝は思い過ごしだったのかと思い、手を止めていたコップ磨きを始めると・・・

使 枝:
ねえ、あの人なんかちょっと・・・

天 枝:
あら、使枝さんも気になった?

しばらくすると同席していた人が支払いを済ませて店を出て、さっき気になっていた人がそのまま席に残った。
その女性は再度席を立つと天枝の方にやってきた。

女 性:
あのお、ちょっとお訊きしたいんですけど。
ここって占いか何かやってるんですか?

使 枝:
占いはやっていませんが、スピリチュアリストとしてのご相談はお受けしています。

女 性:
スピリチュア? って何ですか?
霊が見えるとか、聞こえるとか、そういうのですか?

使 枝:
そういうオカルト的なことではなくて、普通に人生相談と考えてもらえばいいかしら。
何か悩みがおありでしたら、話すだけでもすっきりしますよ。
それに、話していて自分で答えを見出す方もいらっしゃいますし。

その人の名前は門田さんと言った。
さっき一緒にいた人に相談するつもりだったけれど、学生のころからの友達なので話が脱線し続けて自分の悩みを打ち明けるなんてところまでも行かなかった、ということだった。

門 田:
相談料はお高いんでしょうね。

使 枝:
お代はお飲み物を注文していただくだけですから、気にしなくてもいいですよ。
少しお話してみます?

門田さんは、初めて会う人に相談するのは気が引ける、と言いながらもゆっくりゆっくり話し始めた。
彼女の悩みというのは、自分の趣味に関することだった。

門 田:
数年前に母がガンで入退院を繰り返していた末に亡くなりました。
長患いだったので心づもりができていたせいか、悲しみはそれほどでもなかったんです。
可愛そうなのは父親で、仕事に出かけていくのも辛そうで、いまだに母親の影を追って生きています。
元気だった頃の母の姿ばかりが思い出されるようで、すごく寂しそうなんです。
あ、悩みというのは母親が亡くなったことがきっかけというか、いろいろ考えることが出てきまして。
母親の趣味は読書で、一部屋を占領するほどの蔵書があります。
父親も私たち子供もあまり読書をしないので、今はもうお荷物状態です。
でも、母が大切にしていた遺品かと思うと処分しようにもなかなか踏ん切りがつかなくって・・・
その母の蔵書を見ていて、ふと自分に置き換えてしまったんです。
母はこれだけの本を残したのだけれど、何のために集めてたのかと。
もちろん読むために買ったわけですが、部屋を占領しているにもかかわらず処分せずにため込んでしまったのはなぜだったのかと考え始めてしまったんです。
なぜそれが気になるのかというと、私は古銭が大好きで、相当集めています。
コーヒーを飲みながら集めた古銭を見るのが至福の一時なんです。
はるか昔に思いをはせて、どんな人が使っていたのか、どれぐらいの人の手を経たのか、どこを旅したのか、なんて想像しているだけで楽しくって。

天 枝:
古銭集めとは風流ですね。
大判とか小判なんかもお持ちなんですか?

門 田:
はい、持っています。
古銭を見ていると本当に楽しいんです。
この大判は徳川将軍が使ったのだろうか、それとも豪商の間を行き来していたのだろうか、もしかしたら大盗賊に盗られたものだったのだろうかと想像してしまいます。
前に友人に話したら、そんなこと考えてるの? って鼻で笑われました。
他の人にとっては馬鹿げていることかもしれないけど、私にとっては真剣なことなんです。

天 枝:
想像するのがお好きなんですな。

門 田:
ええ、食費を削ってでも古銭代に充ててきましたから。
実は、悩みというのは この古銭のことなんです。
母の蔵書を見ていて、結局母にとって本って何だったのだろうか、いえ、本が人間性を深くしていくのはわかりますから、無駄ではなかったのはわかります。
でも、自分が集めている古銭は私の人間性を深くしてくれたわけではないと思うのです。
ただ集めて、眺めて、それで心が満たされてきただけですから。
趣味とはそういうものかもしれませんけど。
私が死ねば古銭は売られて誰かの生活の足しになるのはわかっています。
でも、売られてしまうことを考えると、とてつもなく悲しくなるんです。
こんなに一生懸命集めてきて、自分が死んだらもう見ることができないだけでなく、処分されてしまう。
こんなに悲しいことってありますか?

天 枝:
誰にとっても、自分が好きなものには愛着がありますものね。
自分で処分するならいざ知らず、誰かの手で処分されてしまうのって辛いですから。

門 田:
そうです、そうなんです。
おっしゃる通りです。
私はまだ独身なので、子供はいません。
あえて言うなら、古銭が子供のようなものなんです。
だから、どれ一つも手放したくないぐらいに愛着があるんです。
でも、何がきっかけはわかりませんが、いつかは離れなければいけないことはわかっています。
その時のために、今から心づもりをしておきたいんです。
どうやって心を納めたらいいのでしょうか。

天 枝:
一つの救いは、あなたが意固地な人ではないということです。
古銭のことは大好きだけど、執着している自分の心を何とかしたい、ってことですものね。
わかっているからこそ、執着している心を解き放ちたい、って感じかしら。

門 田:
ええ、そうです。
大好きなのに手放す時のことを考えているなんて変ですよね。
頭で考えるっことと 心で思っていることがちぐはぐなんです。

天 枝:
死んだらということですから、そこに焦点を絞ってお話ししますね。
誰でも、いくら大切にしている物でも、死んだ自分は何一つ持って行けないだけでなく、執着していると死後の生活にとってマイナスになります。
死んで霊界へ持って行けるのは、自分というものだけなんです。
成長した自分なのか、目覚めてもいない自分なのか

門 田:
死後の世界って本当にあるんでしょうか。
結局 私は死ぬのが怖いんです。
誰でもいつかは死ぬということがわかっていても、死んで自分というものが消滅してしまうことを考えると、ブラックホールに飲み込まれていくように感じてしまって・・・

天 枝:
結論から言いますと、あなたという存在は死んだからといって消滅するわけではありません。
肉体はなくなりますが、あなたという存在は霊として永遠に生き続けます。
今のあなたの心そのものが生き続けるんです。

門 田:
私は幽霊になるんですか?

天 枝:
幽霊というとオカルト的になりますが、その辺りを話すと長くなるのでまたの機会にしますね。

門 田:
わかりました。

天 枝:
まず、死ぬ時ですが、大半の人は苦しむことなく他界します。
意識が混とんとしているなら、たとえ痛がっていても本人は痛くありません。

門 田:
え? そうなんですか?

天 枝:
そうなんです。
例えばですが、海で溺れたとします。
最初は息ができなくて苦しいけれど、すぐに意識が遠のいて行きます。
気が付いた時には肉体から分離して霊だけになっている、って感じです。
痛くて苦しいのは病気などの時です。
死ぬということがどういうことなのかを知らずに意識がある中で病魔に蝕まれると、死ぬまでの間が苦しいし、怖いし、不安だらけになります。
この病気から解放されたい、早く死んで楽になりたいと思っても、なかなか思い通りにはいかないですから。
ガンであれば当然痛みが伴います。
でも、昏睡状態になれば痛みは感じません。
死に方は十人十色ですし、同じ病気でも亡くなり方は千差万別ですから一概には言えませんが。

門 田:
私の母はガンだったので、すごく痛がって、お医者は痛み止めの注射を打ってくれてました。
ガンは、肉があるうちは死ねないと言うだけあって、亡くなった時は骸骨の上に皮があるだけの感じで、全くの別人になっていました。

天 枝:
お母様が変貌していくのを見るのは辛かったでしょうね。

門 田:
ええ、元気な時とは全く違ってしまいましたから。
普通なら、もっと生きていて欲しいと思うのでしょうが、私たち家族は早く逝かせてあげたい、と思うほどでした。
あ、ごめんなさい、すぐに脱線してしまって。

天 枝:
話したいことが山ほどおありなんですね。
古銭のお話は後日にして、お母様のことをお聞きした方が良いのかしら。

門 田:
あ、いえ、肝心なことをお聞きしたいので、そちらをお願いします。

天 枝:
お母様とか、門田さん自身のことではなく、人間全般のことをお話ししてもいいかしら。
誰にでも当てはまることなので、理解が進めば自分のことに置き換えて考えることができるかもしれません。

門 田:
はい、お願いします。
聞かせてください。

天 枝:
まずですが、人は何のために生まれてきて、何のために生きたらいいのか。
それを知っているのと知らないのとでは人生に大きな差が生まれます。

門 田:
自分は何のために生まれてきたんだろう、自分が生きる道は何なのだろう、というのを学生のころには考えたことがありましたが、いつの間にか考えなくなりました。

天 枝:
哲学者や宗教者、コラムニストたちがそれぞれの理論を展開してお話しされますが、どれも一部分でしかありません。
何のために生まれてきたのかというと、「人間として成長するため」です。
人間として成長するというのは、利他愛を成長させること、とも言えます。
さらに言えば、「霊として永遠に成長し続けるため」、ということになります。

門 田:
私はもういい大人です。
年相応に成長してきたつもりです。

天 枝:
あなたの言う成長とはどんなのかしら?

門 田:
助けてもらった恩を忘れないとか、義理を大切にするとか、しきたりを守るとか、協調性のある自分になるとか、そういうのだと思います。
いつも気を付けていますから、粗相したことは あまりないと思います。

天 枝:
その努力も成長の一部ですが、実はもっと肝心なことがあるんです。
まず、摂理を知ることです。
なんでも、まず知るところから始まるでしょ。
人として成長していくことだって同じです。
成長するとはどういうことなのか、どうすれば成長するのかをまず知らないと 成長しているつもりがカルマを積んでいるということだってあり得るんです。
知って成長すれば、あなたが抱いている不安はすぐに解消されると思います。

門 田:
教えてください。
どうしたら成長できるのでしょうか。

天 枝:
私が今ここで話せば、それなりに理解してくれるでしょうが、たぶんすぐに忘れてしまいます。
まず、自分でこれを読んでみてください。
少し難しいかもしれませんが、飛ばし飛ばしでもいいので読んでみてください。
そして、心に留まったところはノートに書き出してみてください。
読み終えたら、また来てください。
門田さんの心に留まったところについて一緒にお話ししましょう。

門 田:
わかりました。
読んでみます。

門田さんは天枝と使枝がまとめた「シルバーバーチの霊訓」の小冊子を手に取り、パラパラと目を通してから、バッグに入れ、丁寧に会釈をして帰って行った。

使 枝:
あの方、ああいう疑問が出るということは、時機が来ているのかしら。

天 枝:
だといいけれど。
たとえ時機が来ていても、受け入れるだけの要素がなければそれで終わっちゃうからね。

使 枝:
次に来た時、真理の話ができるようにお祈りしておきましょう。

門田さんは、すぐに話が脱線するタイプだったけれど、次から次へと疑問が膨らみ、知りたくなるのは良い傾向だと天枝も使枝も思った。

使 枝:
さてさて、お客さんがそろそろ入れ替わる時間帯になったわ。
天枝さん、テーブルの清掃をお願いね。

空を見上げると、うろこ雲が空一面に広がっていた。
秋本番の始まりを感じるひと時でした。

― end ―

2018 / 10 /09

 




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