スピリチュアリズム 

スピリチュアル・カウンセラー
天枝の日誌

第12話
「 人が変わる時 」

今日は寒波で風が強いためか、客はほとんど来ない。
こういう商売は、どうしても天候に左右される。

今日は寒波で風が強いためか、客はほとんど来ない。
こういう商売は、どうしても天候に左右される。

天枝と使枝は暇を持て余し、珍しくテレビに見入っていた。
霊的な状態にある時はバラエティ番組など見る気にもならないが、そうじゃない時は、なぜか見ていて面白いと思う。

それでも、トークの中にキラリと光る話が出てくると、ホッとしたりもする。
こんなところで自分の心霊状態が分かるものだと、2人で顔を見合わせて笑った。

そういえば、あの時もこんなふうに寒くて風の強い日だった。
天枝と使枝は同時に同じ人のことを思い出していた。

3年ぐらい前になるだろうか、髪が乱れないように、マフラーで頭をしっかり巻いた女性が入って来た。

肥満と言っては申し訳ないけれど、第一印象としては小ぶりの相撲取りのような感じで、圧倒されるぐらいに存在感のある人だった。
その人はマフラーを取りながら、入り口に一番近い席にドシッと座った。

天枝がお水とおしぼりを持って行くと、その人は大きな声で、「 ここでカウンセリングをしてくれると聞いたんだけど 」 と言った。

彼女は自分では普通に話しているつもりなのだろうが、「 そんなに大声を出さなくても聞こえます 」 と言いたくなるほど大きな声だ。
身長は低いのだが、体格の良さに加えて声がハスキーなせいか、ドスが効いていて、かなりの迫力を感じる。


天枝:
私がお受けしているのですが、カウンセリングをするテーブルはあの奥になりますので、あちらに移動していただいてもいいでしょうか。


女性:
ええっ?
せっかくここに座ったのに、動くのお?
ここじゃだめなの?


天枝:
ここは入口に近いですし、他の方が入っていらした時に、お客様が話しにくくなるかと思いますので。


女性:
仕方がないなあ。
だったら移動するわ。


そう言いながら、よいしょと立って、ドシッドシッと歩きながら席を移ってくれた。

彼女が言うには、生まれてからずっと辛い状況が続いているので、前世を見てほしいとのことだった。
前世がわかれば、今の自分が変わるかもしれないと。
しかし残念ながら、天枝にはそういった能力はない。


女性:
そんなあ、あのスピリチュアル・カウンセラーの江原さんって、前世が分かるんだよねえ。
ここに同じスピリチュアル・カウンセラーがいると聞いたから来たのに。
見てもらえないんだったら、ここに来るだけ損した。
本当に全然わからない?


天枝:
スピリチュアル・カウンセラーといってもいろいろあって、私の場合は、悩みとか苦しみを霊的真理で整理して差し上げているだけなんです。


女性:
ふうーん。
霊的真理って何?


天枝:
摂理とか、目に見えない世界の事実のことです。
自分で望んでも望まなくても、誰でも神様が定めた法則の中で生きているんです。
たとえば、あなたの心臓とか内臓ですが、あなたがどう思おうと、あなたが寝ている時でも、あなたの意思と関係なくきっちりとしたサイクルで動いています。
簡単に言えば、自分の意思で早く大人になりたいと思っても、すぐになることはできないし、子供時代に戻りたいと思ってもできません。
たった1本の白髪さえ自分の意思で黒くすることはできないし、火傷の痕が残ったからと言って、それを消すことすらできません。
人間には関与できない確実なサイクルと言いますか、それが摂理です。
そのサイクルとかバランスが狂うと病気になるわけです。
それは肉体だけでなく、心の世界もそうです。


女性:
ふうーん、難しいからよくわからん。
でもさ、そういうのがわかるなら、前世とか、後ろについている霊だってわかるんじゃないの?


天枝:
残念ながら、後ろについている霊が見える霊能者はいても、本当の前世のことが分かる人はほとんどいないと思います。


女性:
じゃあ、あの江原さんはわかるってことだから、特別な人なんだ。


天枝:
さあ、どうでしょうか。
私は江原さんにお会いしたことがないので。


女性:
まあいいわ、せっかく来たんだから、何かアドバイスしてよ。


天枝:
よかったら、何があったか話していただけますか。
お力になれるかどうかわかりませんが、話すだけでも気持ちが楽になると思います。


彼女の名前は中伊田さんと言った。
身長は150㎝そこそこなのに、体重は120㎏を超えているということから話が始まった。
本人が言うには、太っているのは薬の副作用で、たくさん食べているわけじゃないとか。
きっと、誰もが太っていることを言うので、言われる前に自分から切り出したのだろう。

悩みというのは、小さい頃のことから始まっていた。
自分は頭が悪いから、いつも父親に叱られてばかりいること。
普通に話しているつもりなのだが、地声が大きいせいで、いつも “うるさい” と言われること。
普通に言っているつもりなのに、言葉が荒いせいか、誰もがけんか腰だと責める。

自分は見かけと違って動物が大好きで、虫一匹殺すことができないのに、初対面の人は一様に、父親はやくざなのか? お前は怖い奴だ、と言われる。
自転車に乗っていると、後ろから来た車が横で止まって、わざわざ罵倒する言葉を言われることもあるし、買い物に出かけると、ジロジロ見られたりするという。

太っていることを言われた日は、一日中気が塞ぎ、家族に当たり散らしたりしてしまう。
そうすると、よけいに叱られて悪い頭が余計におかしくなる。
誰も自分のことをわかってくれない、いい友達がいない。
どうしたら今より気持ちが楽になれるのか知りたい、ということだった。


天枝:
何の病気なんですか?


中伊田:
糖尿と、アトピー。
心臓も腎臓も良くなくて、毎日薬漬け。
それに、働きたくても、太っていると雇ってもらえないことが多いんだ。
小中とAB学級だったから、勉強もできないし、字もろくに書けないから、まともなところじゃ働けない。
人目の付かないところがいいと思って、情報誌で皿洗いとか、ラブホのメイキングとか見つけると電話してみるんだけど、まず面接で落っこちる。
理由は学歴とデブってことなんだろうな。
それに、働くところが見つかってもすぐに喧嘩するから、長続きしなくてさ。
我慢が足りないんだ。
最近は人間恐怖症になっちまって。
結局、40過ぎた今でも親のスネをかじる生活しかできない。
情けないだろ。
頭が悪いのって、治るのかな。


天枝:
話し方とか、態度とか、自分で努力して変えようと思ったことは?


中伊田:
これでも努力しているんだけど、話し方も気を付けているけど直らない。
たまに友達から電話があるけど、そういうのは金を借りに来る連中ばかりでさ。
私だって持ってないのに、親に貰ってつい貸しちまって、貸したお金は戻ってこないしさ、世の中ロクなヤツ居ないよ。
みんな性格悪いんだよ。


天枝は、初めて会ったこの女性に、圧倒された。
聞いてみると、病気はあるけれど、人生そのものはそれほど波があるわけじゃないし、両親のお蔭で生活に困っているわけでもない。
でも、確かに生き難いだろうなと推察できる。


天枝:
中伊田さんはどんな生き方がしたいですか?


中伊田:
どんな生き方?
そんなの考えたこともないよ。
じゃあ、あんたはどんな生き方をしてるの?


まさか反対に聞かれるとは思っていなかったけれど、


天枝:
私は・・・誰かの役に立つ人間になりたいと思ってるんです。
だから、こうしてカウンセリングしているんです。


中伊田:
へえー、偉い人なんだね。
私はとにかく、今が変わってほしいんだ。
それだけだよ。


天枝:
周りを変えたいっていう事ですか?


中伊田:
お父ちゃんがいつも言うんだけど、周りは変わらないから、自分が変わらないといけないって。
自分が変われば周りも変わるって言うんだけど、どうやったら自分を変えることができるかわかんない。
私は頭が悪いから、良くわからなくてさ。
私が変われば、お父ちゃんに殴られずに済むかなあ。
あんた、教えてくれる?


天枝は、すぐには答えられなかった。
しばらく考えて出てきた言葉は、


天枝:
お父さんは、自分を変えるにはどうしたらいいって言ってるんですか?


中伊田:
一つ一つ努力するしかないって。
でも、どうやって努力したらいいか分からない。


天枝:
そうですねえ・・・
まず、自分で直したいところを書き出してみましょうか。


中伊田:
わかった。


そう言って紙に書きだしたが、ほとんどがひらがなだ。
でも、字は上手だと思ったので、「 きれいな字を書かれるんですね 」 と言うと、書いている手を止め、急にポロポロと大粒の涙を落とした。


中伊田:
そんなこと言われたの初めて。
いつも、お前は字も書けないとか、ひらがなばっかりだとか言われてきたから。
私の字、本当にきれい?


天枝:
ええ、きれいですよ。


中伊田さんは小さな子供のように手の甲で涙を拭い、にっこり笑って続きを書き始めた。


――わたしがかわりたいとはやせることこえを小さくすること


天枝:
痩せることと、声を小さくして話せるようになりたいのね。


――けんかしないようにするおとちやんのいうこときく


天枝:
喧嘩をしないようにすることと、お父さんの言うことを聞くことね。
他にまだあるかしら。


中伊田:
お父ちゃんからいつも言われているのはこれだけ。


天枝:
わかりました。
一度に変えることはできないから、焦らずに一つずつゆっくり行きましょう。
しばらくは、声を小さくすることから始めましょうか。
今から私が紙に書きますから、いつも持ち歩いてください。
そして、誰かと話す前は、その紙を見て読んで下さい。
最初は知らず知らず大きな声を出していても、紙を見るたびに自覚ができて、自分をコントロールしやすくなると思います。


そう言って、天枝はそれほど大きくない硬い紙に 『 小さい声で 』 とだけ書いた。
それだけでは殺風景なので、少しばかりの花のイラストも添えた。


天枝:
人と話す前に、この紙を読んでね。
話している最中も、時々読んだ方がいいかもしれないわ。
声を小さくして読んだらいいわ。


そう言いながら、天枝が書いた紙と中伊田さんが書いた紙をピンクの封筒に入れて渡した。


中伊田:
わかった。
ふうーん、小さい声で、かあ。
これぐらいでいいんかなあ。


天枝:
それだとヒソヒソ話しているみたいね(笑)


中伊田:
じゃあ、こんな感じ?


天枝:
そうそう、その声の大きさがいいわ。
とても上品に聞こえる。


中伊田:
上品? 
それも初めて言われた。
私の声もまんざらじゃあないってことかあ。


そう言って、中伊田さんは高らかに笑った。


 天枝:
あらあら、また元の声に戻ってしまってるわよ。


 中伊田:
あ、いっけねえ。


そう言って照れくさそうに笑った。


天枝:
だんだん慣れてきたら、紙を読まなくても小さな声で話せるようになるはずよ。
紙を見なくても小さな声で話せるようになったら、また来てください。
次のことを書きますから。


中伊田:
うん、わかったあ。


そう言って、中伊田さんは帰って行った。
ドアのところで見送ると、後ろを何度も振り返りながら、にこにこと笑いながら、手を大きく振っていたのが印象的だった。


それから半年ほどたち、あれから彼女はどうしたのだろう、少しは小さな声で話せるようになっただろうか、と思っているところに、ご夫婦と思われる人たちがお店に来た。
男性の方が、

「 あのう・・・中伊田と言いますが・・・」


天枝: え? 
中伊田さん?
あの中伊田さんのご両親?


父:
はい、娘が大変お世話になったそうで、お礼に伺いました。
実は、先月ですが・・・ 娘が他界をいたしまして。


天枝:
え? 亡くなったのですか?


父:
はい、心筋梗塞でした。
娘はいつも2枚の紙を肌身離さず持っていて、事あるごとに見ていました。
何を見てるんだ、と聞いても笑うだけで、何も話してくれませんでした。
その時は見せてくれなかったのですが、死んでから初めてその紙に書いてあることを見ました。
そして、その意味を昨日、娘の友達から聞きました。
一枚はあなたが書いて下さったんですってね。


そう言って、バッグからピンクの封筒を取り出した。
封筒はヨレヨレになっていて、中に入れてある紙も折り筋が付いているところの字は擦れて見えにくくなっているほどだった。
何度も何度も出しては見ていたのだろう。
天枝は胸が詰まった。


天枝:
これは私が書きましたが、こっちは娘さんが自分で書いたものです。


父:
知的障害のある子ですから、40歳を過ぎているのに周りとうまくやれなくて、本人も苦しかったと思います。
少しでも悪印象を拭わせたくて、私がいつも、声が大きい! もっと静かに話せ! って言ってたものですから。
この紙を見るようになってからは、少しずつ小さな声で話せるようになって、私も苛立つことが少なくなってたんです。


天枝:
頑張って努力していたんですね。


父:
娘が書いたのを見つけた時、胸が苦しくなりました。
ガサツですし、叱れば反撥する子でしたから、全然こたえていないと思っていたけれど、ああ見えて娘は気にしてたんですね。
あなたのお蔭です。
有難うございました。


父親がそう言った後、母親が小さな声でつぶやくように話した。


母:
もう少ししたら、お店に行ってもいいかなあ、って言ったことがあったんです。
どこのお店? って聞いたら、笑うだけで何も言わなかったのですが、昨日娘の友達がお線香をあげに来てくれまして、こちらのことを知ったんです。


天枝:
そうですか・・・


父:
生まれ付きいろいろ病気を持っていまして、糖尿もありましたので、ご飯を控えろ、野菜を食べろ、と口うるさく言っていました。
食事の量自体はそれほど多くはなかったのに、なかなか痩せなくて。
死んだあとで部屋を整理していて分かったことですが、ベッドの下からお菓子の袋が山ほど出てきました。
痩せないのは薬の副作用だとばかり思っていたのですが、そうじゃなかったようです。
食事に関しては私の言いつけを守ってはいたけれど、空腹感が我慢できなかったんですね。
全部妻任せにしていて、私は口うるさく言うばかりでした。
時には殴ったりもしました。
今となっては後悔ばかりです。
仕事の関係で、部下たちもよく家に来るんですが、そんな時は部屋から出ないように外から鍵をかけました。
私にとって娘はコンプレックスでしたから。
バカな親でした。
子供に先立たれる親ほどみじめで不幸なことはないです。
失って初めてわかったなんて、遅すぎますね。


天枝:
そうですか。
でも、娘さんは今は知的障害ではなく、正常な状態に戻りつつありますから、ご安心ください。


父:
正常な状態に戻りつつある? 
どういうことですか?


天枝:
人間に死はないんです。
肉体が無くなるだけで、魂は生きています。


父:
それって最近よく聞くことですが、本当なんでしょうか。


天枝:
はい、本当です。
魂と霊は正常ですから、今は肉体が抱えていた病気の苦しみから解放されつつあると思います。


母:
娘は幸せに暮らしているのでしょうか。


天枝:
今はまだ他界して1か月ですから、調整期間中だと思います
まだ現世を引きずっていますから決して幸せとは言えませんが、少なくとも、肉体を持って生きていた時よりはマシだと思います。


父:
そうですか・・・ 
娘は私のところに生まれて不幸だったのですね。


天枝:
いいえ、娘さんはカルマを解消するために、自分であなたと奥さんのところに生まれることを選んで来たんです。
幸せだったのか不幸だったのかは、娘さんの心が決めることです。
もしお父さんが娘を不幸にしたと思っていらっしゃるのなら、お父さんなりの罪滅ぼしをなさってください。


父:
どうすればいいのでしょうか。


天枝:
娘さんが生きていることを思って、いつも語りかけてあげてください。
いわゆるお供え物をしたりお線香を立てたりする先祖供養などと言うものは必要ありません。
いつも語りかけてあげるだけで、愛が光となって娘さんに届きます。
彼女にとっては、その光がたくさん届けば嬉しいし、次に進むステップとなります。


父:
そうですか、分かりました。
貴方の言うことを信じて、毎日語りかけるようにします。
本当にいろいろと有り難うございました。


中伊田さんのご両親は、小さく会釈すると、2人とも肩をすぼめて帰って行った。
その様子を見て、天枝も使枝も、なんだか切ない思いが込み上げてきた。
中伊田さんのご両親が帰ってすぐ後、お客の1人がお勘定を済ませて帰って行った。
しばらくして、手がすいたので使枝が伝票を整理していると、あることに気が付いた。
裏に何か書いてある。


『 あなたが見えると言い張るところに、あなたの罪がある 』


使枝はすぐに天枝を呼び、伝票を見せた。
どの席に座っていた人の伝票かはわかっている。
エテルナには初めて来た人で、中伊田さんのご両親と話をしている時に、近くに座っていた人だ。

それを読んで、天枝は言い知れぬ思いに捉われた。
見知らぬ人なのに、それも話を盗み聞きして、何も知らないのに、たった1回聞いただけでこんな言葉を残すなんて。
そういう怒りとも何ともつかない苛立ちの思いが湧いた。

その人は、中伊田さん夫妻と自分の話を聞いていて書いたのだろうか、それとも、何となく書いただけなんだろうか。
どちらにしても、初めてのお客で、住んでいるところも名前も何もわからないから、確かめたくても確かめる術がない。
この苛立ちをどこに向けたらいいのか、どうやって解消したらいいのか、どう考えたらいいのか・・・

この頃、天枝は苛立つことが多くなっていた。
人は真理を知ると、時として極端にストイックになることがある。
自分の心の汚さとか、言動の甘さが許せなくなるのだ。
自分に厳しくするように、真理を知っている人に対してもつい厳しい目で見がちになる。
その厳しさは、裏を返すと傲慢にもなる。

自分と違った考えの人が受け入れられず、ついつい、自分と同じ考え方、物の見方を相手に要求してしまい、その人がその通りにならないとイライラするのだ。
ちょうどこの頃、天枝はそういう状態に陥っていた。

天枝には、見えるとか聞こえると言った霊能力はない。
しかし、側で聞いていると、さも見えると言わんばかりの言い方になっていたのかもしれない。
だから、『 見えると言い張っている 』 ように映ったのかもしれない。
『 見える 』 というのは、『 知っている 』 ということでもある。
シルバーバーチを読んだことで、さも自分は何でも知っていると言わんばかりに話していたのだろうか。

中伊田さんのご両親は、当然ながら自分より年上の人だ。
社会経験も人生経験も自分よりはるかに多い人なのに、その人たちに向かって、偉そうに話していたのかもしれない。
自分は謙虚に話しているつもりだった。
しかし、その実、相手は何も知らない人だと見下し、目に余る傲慢さがあったのかもしれない。
それを見ていたお客は天枝にそれを言いたくて、書き残して行ったのかもしれない。
そう思えて仕方がない。

伝票の裏に書かれていた言葉はしばらくの間天枝の頭を占領していたが、今思うと、自分では謙虚のつもりでも実際には傲慢であったことを気づかせ、天枝に喝を入れてくれたくれたように思う。
そう、中伊田さんに書いてあげた言葉が中伊田さんに影響を与えたように、伝票の裏に書かれた言葉は天枝に大きな影響を与えてくれた。

あれからずいぶん経つが、あのお客はどこの誰だったのか、いまだにわからない。
でも、あの言葉には、今では心から感謝している。
そして、あの伝票は、今でも大切にとってある。


 ― end ―

2013 / 02 / 17 初編
2015 / 02 / 16 改編

 

 




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