スピリチュアリズム

スピリチュアル・カウンセラー

天枝の日誌

第16話
 「霊能力を封印するには 」

天枝は妹の使枝と一緒に「エテルナ」という軽食喫茶を営んでいる一方、スピリチュアル・カウンセラーとして、無料で相談に乗っている。
この日、一人の若い女性が天枝を訪ねて来た。
礼 香: すみません、相談したいことがあって来たんですけど、よろしいでしょうか。
天 枝: はい、どうぞ。
中でお話を伺います。
彼女は礼香さんといって、年齢は二十代後半ぐらい。
髪は染めてなくて、ストレートのロングヘアをしている。
黄色いサマーニット・セーターと こげ茶色のパンツ、黒いパンプスを品良く着こなしていた。
彼女は心が落ち着かないという感じでソファーに腰かけた。
天 枝: 遠慮なく話してみてくださいね。
礼 香: はい、ありがとうございます。
かなり前ですけど、友人がこちらでお世話になって助けられたと言っていたものですから。
天 枝: そうですか。
それは良かったです。
さっそく相談内容をお聞きしてもかまわないかしら。
礼 香: 実は・・・霊能力を封印するにはどうやったらいいのかお聞きしたくて・・・
天 枝: 霊能力を封印?
礼香さんは霊能力をお持ちなのですか?
礼 香: 霊能力だと思うのですが・・・
私・・・霊が見えるんです。
それに、聞こえるんです。
見たくなくても見えてしまうんです。
見えなくするにはどうしたらいいのかと思って。
天 枝: それは霊能力ではなくて、体質的なものかもしれません。
礼 香: 体質というと・・・
天 枝: 霊体質ということです。
ここに来る前に、どこかに相談に行きました?
礼 香: あちこち行きました。
もしかしたら病気じゃないかと言われて、精神科の病院に行ったら、軽度の統合失調症だと診断されてお薬を貰いました。
でも・・・薬を飲んでも見えてしまって・・・。
自分の心と身体が分裂しているような感じになってしまって、ヤバいと思ったんです。
それに頭がぼーっとして、自分が自分でなくなるような感じになったので、すぐにお薬をやめて、病院に行くのもやめました。
他の霊能者を紹介されて行ってみたけど、その人に「やったことがないので、封印の仕方はわからない」と言われました。
次に行ったところは仏教系の宗教で、手を額にかざしたり、お経をあげたりしてもらいましたが、全然変化はありませんでした。
他の宗教にも行ってみました。
すると、これは霊障だと言われて、体中に塩を擦り込むといいとか、護摩を焚いたらいいとか、それには50万円ぐらいかかると言われて。
そんなお金は持ち合わせていないと断ると、更に強い霊に憑りつかれると言われました。
ちょっと、脅しのように感じて怖かったです。
私の場合は見えるだけであって、憑りつかれるような感じではないので、丁重にお断りして帰ってきました。
占い師のところにも行きました。
今度は悪霊の仕業だと言われて、それを取るには200万円かかると言われて、こちらも怖くなって逃げ出しました。
エテルナさんが最後の頼みの綱です。
どうか、見えなくする方法を教えてください。
天 枝 見える状態を詳しくお聞きしてもいいかしら。
礼 香: はい。
天 枝: 霊は話しかけてきますか?
礼 香: そういう時も たまにありますが、ほとんど誰かのそばにいて、その人をじっと見ているだけです。
最初は霊だとは思わなくて、普通の人だと思っていたけれど、どうも変なので私の方から話しかけてみました。
すると、その霊はびっくりした様子で、「私のことが見えるんですか?」と聞いてきたんです。
「見えますよ」と答えると、その時は喜んでくれたのですが、そのうちに不満とか愚痴ばかりが出て来て、泣き出したりする霊もいました。
私が上手く話し相手になれないでいると、私の後をついてきて、後ろからずっと話し続けたんです。
そういう霊に限って、帰ってほしいと言っても聞き入れてくれないんです。
でも、ほとんどの霊はいったんは私の方を見ても、すぐに自分が気になっている人の方を向いてじっとしているだけです。
天 枝: いつ頃から見えるようになったの?
礼 香 5年ぐらい前からです。
天 枝: 何かきっかけがあったのかしら?
礼 香: 親戚のおじさんのお通夜に行った日からです。
お通夜の席で、おじさんより先に他界して そこには居ないはずのおばさんが見えたんです。
何かをするわけでもなく、ただじっとおじさんの亡骸を見たり、親戚の人たちの間をゆっくり歩いたりしてました。
そこでやっと 見えているのが霊だとわかったんです。
もしかしたら、それ以前から見えていたのかもしれませんが、気が付いたのがその時です。
天 枝: 周りに、あなたのことに気が付いている人はいますか?
礼 香: わかりません。
でも、変な人だと思っている人はいるかもしれません。
見たいもの、聞きたいことだけ聞こえるならいいけれど、そうじゃないので・・・
天 枝: 今、何か見えますか?
何か聞こえますか?
礼 香: 男の人が立っていて、何かブツブツ言っています。
天 枝: お店の中にはそういう人はいないから、それは霊のようね。
礼 香: やっぱりそうですか。
天 枝: いたずらを仕掛けそうな感じですか?
礼 香: そういう感じはしません。
ただ、そこにいてブツブツ言っているだけです。
天 枝: 向こうは礼香さんを見ようとしていますか?
礼 香: いいえ、自分だけの世界に入っている感じです。
天 枝: だいたいわかりました。
あなたに見えているのは霊界ではなくて、幽界のようです。
もしくは、自分がまだ死んだことに気が付かないで地上に残っている霊かもしれません。
礼 香: 幽界ですか?
霊界じゃなて?
天 枝: ええ、そうです。
礼 香: どうしてそんなことがわかるんですか?
天 枝: 今から話すことをしっかり聞いてくださいね。
そうすれば分かりますから。
人が他界すると、死を自覚できるまでは地上にとどまりますが、死んだことに気が付くと幽界に行きます。
幽界というところはこの地上とそっくり同じで、霊界へ行くための中間地点とでも言ったらいいかしら。
地上と同じで、成長した霊も未熟な霊も一緒に暮らしているところです。
目的としては、肉体のない生活に慣れるとか、地上にいた時の傷を癒したりするためだと言われています。
地上が必要以上に恋しかったり、残してきた家族のことがものすごく心配だったりすると、その思いが消えるまで幽界にとどまります。
霊界に移行したら、地上でのことはだんだん記憶から遠ざかります。
でも、忘れてしまうわけではありません。
地上よりはるかに素晴らしいところなので、思い出している暇がないのでしょう。
礼 香: 死後の世界って、そんな風になっているのですか。
天 枝: もちろんそれだけじゃなくて、地上では想像できないぐらい幅のある世界のようです。
私がさっき礼香さんに「いたずらを仕掛けそうですか?」と聞いたでしょ。
もし、目つきがおかしかったり、礼香さんが気が付く前から礼香さんを凝視しているのなら、これはイタズラ霊であったり、地縛霊であったりする可能性が高いです。
ちょっと厄介な霊です。
お話では、どうもそういうのではなくて、礼香さんから話しかけない限り、礼香さんの存在に意識が行かないようなので、ただ見えるだけの霊障かなと思います。
礼 香: どうしたら そういう霊障がなくなるのでしょうか。
天 枝: 霊能力の場合は、単純に自分の意志で行為を行わなければいいだけのことです。
ところが、礼香さんのように霊体質の人の場合は 自分の意志では何ともならないのです。
『類は友を呼ぶ』という言葉を知っていますよね。
霊の世界でも地上でも、同じ要素を持つ者同志は集まりやすいのです。
礼香さんに見える霊は、礼香さんの魂と同程度の霊たちです。
もし、礼香さんより遥かに成長している霊であったり、逆に遥かに未熟な霊だったりすると 今の礼香さんには見えないわけです。
同時に、あちらからも礼香さんも見えないのです。
ちょっと嫌な言い方をすると、見えるものによって その人の魂の成長がわかってしまうんです。
礼 香: そ、そうなんですか・・・
天 枝: 悪いと言っているのではないですよ。
成長度を言っているだけです。
誰でも、最初は赤ちゃんから始まるじゃないですか。
赤ちゃんが悪いということないし、歳を取ればいいということだってないのですから。
礼 香: そうですね。
天 枝: 似た者同士というのは、摂理で『親和性』がある というんです。
わかるかしら。
礼 香: はい、わかります。
天 枝: そこで、霊障の話だけど、どうしたら良いか少しはわかったかしら?
ヒントを言ったつもりなんだけど。
礼 香: え?
ヒントですか?
すみません、わかりません。
天 枝: 同レベルの話をしたでしょ。
つまり、今の礼香さんが成長すれば、いま見えている霊たちは自動的に見えなくなるってことです。
礼 香: じゃあ、私が成長すれば見えなくなるっとことなんですね。
天 枝: そうではなくて、いま見えているレベルの霊が見えなくなるってことです。
礼 香: ということは・・・
レベルが変わるだけで、結局は見えるってことですか?
天 枝: 結論から言うと、そう、見えなくなるわけじゃなくて、見える対象が変わるということです。
礼 香: 見えるんだったら、結局 何も変わらないじゃないですか・・・
天 枝: 見える霊のレベルが変われば、雰囲気はガラッと変わります。
今見えているのは 自分のことしか考えていない霊たちだけど、成長した霊は誰かのことを助けたい気持ちで溢れているんです。
そういう霊と親和性が持てる段階まで成長したら、もしかしたら見えなくするのが得意な霊が出てきて 手伝ってくれるかもしれません。
礼 香: えっ!
そうなんですか?!
では、どうしたらいいんですか?
天 枝: 答えは一つです。
見える対象を変えるには、まず礼香さんが成長するってことです。
成長するというのは、人の役に立つ自分になるってことなんです。
霊の通貨は 『人のために役立つこと』 ですから、相手を思いやり、自分のことより相手のために、というのが大切なんです。
それも無条件で。
礼 香: 私・・・自分のことしか考えてないかもしれないです。
誰かのためなんて、考えたこともありません。
もちろん、友達が困っていれば助けるけど、内心はめんどくさいなあ、なんて思ったりしてますから。
天 枝: そうね、そういう人が多いと思います。
だから、礼香さんに見える霊というのは、礼香さんと似ている霊たちなんです。
礼 香: 私、どうすればいいんですか?
天 枝: 『人のため』を心がけるのはもちろんだけど、知識で今の自分を整理するために、まず 『シルバーバーチの霊訓』 を読んでみるといいわね。
礼 香: シルバーバーチの霊訓・・・ですか?
天 枝: 貸し出し用があるので、持って行って読んでみます?
礼 香: はい、読んでみたいです。
でも、私 本を読む習慣がないので、読破できるかどうか不安です。
天 枝: 主要な部分だけコピーしたものがあるので、とりあえず、それを読んでみてください。
礼 香 有難うございます。
それを読めば変わりますか?
天 枝: 読むだけでは無理ね。
肉体は食事をすれば自動的に成長していくけど、心とか人格というのは自動的にというわけにはいかないの。
時間も必要だし、何より努力が必要。
知識と実践は両輪だから、まず『人の役に立つ』というのがどれくらい大切かを知識的に知ると、実践もしやすくなると思います。
礼 香: 毎日読み続けたとして、どれくらいで効果が出てきますか?
天 枝: 健康の本ではないから 効果と言えるかどうかわからないけど。
ただね、近道というのはないから、礼香さん次第かしら。
早ければ数日で心の変化があることもありますが、長ければ一生かかっても変化しないこともあり得ます。
礼 香: そんなに長くかかることもあるんですか・・・
天 枝: とりあえず、これを読んでみてください。
読み終わったらまたお話ししましょう。
礼 香: わかりました。
では、お借りします。
失礼ですが、今日はおいくら払えばいいのでしょうか。
天 枝: コーヒーを飲まれましたから、そのお代だけです。
礼 香: えっ? 
たったそれだけ?
天 枝: はい、霊的なことは生業ではありませんから、お食事代だけ頂きます。
天枝はにっこり微笑んで、「また来てください」とだけ言って、礼香の後姿を見送った。
使枝が後片付けをしながら 天枝に話しかけた。
使 枝: 霊体質の人は大変ね。
天 枝: 見たいものだけ見えるのならいいけれど、そんな都合良くというわけにはいかないもの。
使 枝: 世の中には、亡くなった人を呼んで、その霊が伝えたがっていることを知らせることができる霊能者もいるみたいね。
天 枝: ええ、そうみたい。
テレビでもやっているけど、ほとんどが眉唾物だというのは嘆かわしいわ。
他界してから時間が経つと、言語で伝えるのではなくて、イメージで伝えることが多いので、それを読み解く力がないとなかなか正確には伝えられないらしいから。
使 枝: そうね、
天 枝: どちらにしても、霊体質であっても霊能者であっても、結果は動機一つでかなり違ってくるから、やっぱり霊的真理を先に知らないといけないわね。
使 枝: 実をいうとね、最初の頃、見えるといいなあ、なんて思ったこともあったのよ。
天 枝: ええっ、そうなの!?
使 枝: 知らないって怖いことよね。
人ができないことができるなんて、スゴイと思っていたんだから。
とんでもないことだわ。
天 枝: そうね、知らないって怖いことよね。
使 枝: 礼香さん、また来られるかしら。
天 枝: 来てくれるっといいわね。
― end ―
2017 / 08 /31
   




















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