スピリチュアリズム 

スピリチュアリズム
短編小説

第7話
あるヒーラーの一生 B
ブルーテントでの断食


聡史は中学を卒業してすぐに印刷工場に就職したが、治療をしても治らない人がいたことが発端となり、工場を出ることになってしまった。 しかし、工場以外で働いたことがない聡史には、社会的な知識があまりない。 どうやったら新しい職を見つけることができるのか、貯金も根こそぎ盗られて、明日からどうやって暮らして行ったら良いのか、途方に暮れて、ただ歩くしかなかった。

どこをどう歩いたかわからないが、歩き疲れて、お腹も空いて公園のベンチに座っていると、隅の方に大勢の人が集まっているのに気が付いた。

何だろうと思って行ってみると、そこでは列を成して、みんな何かを待っていた。

列の先を目で追っていくと・・・ 炊き出しだ!

数人の男女が、お握りと味噌汁、バナナとかりんごを並んでいる人たちに配っていた。

そうか、ここはホームレスが食事を援助してもらうために並ぶ列なんだ。 俺もホームレスになるのかなあ・・・ ここまで落ちたのか、それとも、まだ生きる道があったと思うべきか・・・

聡史は列に並び、炊き出しを受け取り、その場で口に運んだ。 美味しかった。 体全体に染み渡るほど、本当に美味しかった。 バナナってこんなに甘かったんだ。 雑炊ってこんなに美味しかったんだ・・・

以前は、接待でご馳走ばかり食べていたが、心から美味しいと思って食べたことはなかった。 しかし、ここで貰った1杯の雑炊はこの上なく美味しかった。 人の温かさを感じ、身体が温かくなっていくのを感じると、心全体を覆っていた不安が少し薄らいだ。

その時、1人の男性が声をかけてきた。 ホームレスにしてはまあまあの身なりをしているが、どことなく胡散臭い感じがする。

「 お前さん、見かけない顔だね、新入りかい?  それとも、惨めなホームレスでも見てやろうという物好きの見物かい?」

「 け、見物だなんてとんでもない。 僕はこれから住むところがなくなるんです。 お金もありません。 ふらふら歩いていたらたら炊き出しが目に入って・・・ 」

聡史はそこまで言うと胸がつかえて泣けてきた。 いま男性が言った “ 惨め ” という言葉を聞いて、『 そうだ、自分は惨めなんだ・・・ 』 と思ったら情けなくて涙があふれた。

「 あれあれ、泣いてるのか?  ここじゃあ、泣いたって誰も助けてなんかくれないぞ。 炊き出しだって毎食じゃないから、腹の足しにはなっても、飢えをしのぐほどの量じゃない。 自分で生きて行かなくっちゃな。」

今日はまだ寝るところはあるが、明日からなくなると言うと、その人は自分のブルーテントを見せてやると言って連れて行ってくれた。 一歩テントの中に入ると、外から見るより意外と広く感じた。 中は雑然としているが、鍋とか茶碗とか卓上コンロとか、生活に必要なものは一通り揃っているようだ。 これには、聡史も驚いた。

その人は、
「 ここは、夏は天然の暖房、冬は天然の冷房だぞ (笑)」

そう言って、屈託なく笑った。 こんなところに住んでいても、人って笑えるんだ。 そう思ったら、気持ちが少し落ち着いた。

その人は清水さんといって、周りからはCさんと呼ばれているらしい。 元は小さな会社の社長だったと言う。 切羽詰ってヤミ金から金を借りたのがそもそもの転落の始まりで、利息が返せなくなると取り立て方が尋常ではなくなり、それで夜逃げしてここにたどり着いたと言う。

自己破産をすることも考えたが、家族につらい思いをさせたくなくて、離婚して自分だけが逃げているということだった。 素性がわかるところに出れば海に沈められるかもしれない、と物騒なことを言うが、これは案外本当のことかもしれない。

Cさんは、「 行くところがなければここに来ればいい。 ブルーテントの作り方ぐらい教えてやるからさあ 」 と言っては屈託なく笑った。 聡史は、Cさんの明るさに接して、切れかけていた自分の命が繋がったような気がした。

「 地獄に仏というのはこのことですね。」

「 俺が仏?  ははは、俺はホームレスの仏かあ、それもいいなあ。」

そう言って、顔をくしゃくしゃにして笑った。

まだまだ不安は一杯だが、Cさんと出会って、何とか生きて行けそうな気がした。

テントでいろいろ話していたら、心の疲れがどこかに吹き飛んだようだ。 少し元気が出てきたので、荷物を整理するためにアパートに帰ることにした。 電化製品は処分するのにお金がかかるから、そのまま残していくことにしよう。 社長は怒るかもしれないけど、これぐらいの迷惑はかけてもいいだろう。

元々たいした荷物はないから、まとめるのは簡単だった。 手に持てる物だけを持って、その日のうちにアパートを出た。
誰にも何も言わずに、簡単なメモ書きと、カギを置いて。

その足でCさんのところへ行くと、家族ができたみたいだと言って手放しで喜んでくれた。 そしてその夜、聡史はアパートから持ってきた毛布で体を包んで寝た。 春はもうすぐそこまで来ているけれど、朝晩はまだまだ冷える。 でも、心はとても暖かだった。

翌日、Cさんが、家屋を取り壊している所に連れて行ってくれた。 そこでは板切れや断熱材や釘、それに家具とか台所用品などが手に入った。 この日は洋服もあったし、それほど使われていない毛布や布団などもあった。 段ボールは、量販店の裏に行けばいくらでも手に入るし、ブルーシートは工務店の資材置き場に捨てられているのを手に入れることができた。

必要な材料を集め終わるとしばらく休み、それから2人で手際よくブルーテントを作った。 こうして、聡史はCさんの隣人となり、新たな生活を始めることになった。

ここでの生活は想像していたよりも快適だ。 ホームレス同士は、お互いに敬遠しあうような関係にあるが、気心の知れた者同士に限っては繋がりが強い。 仕事の情報や廃棄のお弁当が手に入るお店の情報とか、とにかく、お互いに生きていく情報を分け合っている。 Cさんに言わせれば、そういう仲間は戦友に匹敵するという。

ホームレスの人たちを見ていると、いろいろな人がいるのに気が付いた。 文化的な生活をあきらめ、惰性でただ生き長らえているだけのように見える人もいれば、1日でも早くこんな生活から抜け出して、社会人としての生活を取り戻そうと必死になっている人もいる。

惰性で生きながらえているように見える人は、見るからにホームレスだが、抜け出そうと必死になっている人は、見かけは普通の人と変わらない。 しかし、必死になっても、こうした生活が長くなりすぎると、社会に戻ることを諦めてしまう人が多いのだとか。 こうした生活から抜け出すのは容易ではないらしい。

Cさんはというと、どちらにも属してないような感じだ。 むしろ、この生活を楽しんでいるようにさえ見える。 この人に出会ったことは、とてもラッキーなのかもしれない。

食べて行くにはお金が必要だ。 何か仕事を探さなければいけないと思って職安(ハローワーク) に足を運んでみたが、保証人がいないこと、運転免許証を持っていないこと、住居がないこと、電話がないことなどで、仕事先に連絡さえ取ってもらえなかった。

こんなことなら、仕事が見つかるまでアパートにいた方が良かったかもしれないと思ったが、やっぱりあそこにはいられなかったから、根気よく探すしかない。 自分はまだ若いから、仕事なんかすぐに見つかると思っていたが、そんなに甘いもんじゃなかった。

工場は自分から出てきたから、失業保険は適用されないらしい。 役所に生活保護の申請も行ったが、
「 父親がいるなら、父親に連絡を取りなさい。 それに、あなたはまだ若いんだから、仕事を見つけて頑張りなさい。」

そう言われて追い返された。 公営住宅の申し込みはもっとダメで、定期収入がないというだけで申請さえ出させてもらえなかった。 そうなると結局、ブルーテントに住むしかない。 世の中というのは、底辺に住む人間にはとことん冷たくできているようだ。

役所から一歩外へ出た時、これが自分に課せられた道であるなら、その中で人間らしい生き方をしていこうと腹をくくった。 何かが吹っ切れた一瞬だった。

それからの生活は、Cさんと一緒に食べ物を探して歩くことが毎日の日課となった。 廃棄のお弁当をそっと裏に積んでおいてくれるコンビニ。 お客の食べ残しだが、手が付けてないのをビニールに入れて裏に置いといてくれるレストラン。 パン屋では、パンの耳の売れ残りが手に入った。

何気ない人の優しさに触れると、人間、まだまだ捨てたもんじゃないと思えてくるから不思議だ。 しかし、おもむろに汚い目で見られると、恥ずかしさが急にこみあげてきて、その場から逃げ出した。

日雇い仕事ができる日は働いた。 公園の草刈りとか、道路工事の手伝いとか、人手が足りないところから時々募集が掛かって、そこにホームレスが押し寄せる。 募集人員2人というのに30人ぐらいが申し込む。 運が良ければ、仕事にありつける。 こういう時は若さが役に立つようだ。

日雇いは日給制だから、その日にお金が手に入ると、Cさんと2人で祝杯を挙げたりした。 ブルーテントに住んでいると、1週間に1回働くことができれば何とかやっていける。 聡史は、週に2回ほど仕事にありつけた。

ある日、Cさんが病気になって寝込んでしまった。 風邪をこじらせたらしいのだが、病院に連れて行くお金はない。 Cさんは、じっと寝ていればそのうち治ると言って、体を丸めて寝ていた。 時々咳き込み、そのたびに丸めた体をさらに丸めた。 何も食べていないので、咳き込むたびに黄色い胃液を吐く。 しかし、そのうち、その胃液さえ出なくなった。

3日もすれば良くなるだろうと思っていたが、良くなるどころか、ただでさえ黒い顔が妙な土色になり、呼びかけても返事をするのがやっとの状態になった。 翌日になると、呼吸も荒くなり、ハーハーと言いはじめた。

聡史は、あの力を使おうか、どうしようか、迷った。 あの力を使えば、病気はたぶん良くなるだろ。 でも、またクチコミで人が我れ先にと集まり、最初は治っていてもそのうち治らない人が出たり亡くなる人が出たりすると、また槍玉にあげられるかもしれない。 そうすると、今度はここを出て行かなければいけなくなる。 ここを出たら、自分にはもう行く場所はない。

聡史は迷った。 でも、大切なCさんを苦しいままにしてはおけない。 そう思って目を瞑り、意識を集中してCさんに触れた。 すると、今まで荒かったCさんの呼吸が次第に穏やかになっていくのがわかった。 土色をしていた顔色も、しだいに赤みを帯びてきたように見える。 熱もだんだんと引いているようで、うっすらと汗をかいている。 聡史はホッとした。

その日の夜、Cさんはずいぶん元気になった。 半日前までは意識が朦朧とするぐらいにぐったりしていたのが、座ることができるぐらいに回復した。
聡史は今回のこと、そして今までのことを思い切ってCさんに打ち明けた。 最初Cさんは驚いて聞いていたが、聡史が話し終わると言った。

「 人を助けようとしてやったことなら、すばらしい行為だよ。 人は自分の動機と行動にしか責任がもてないんだ。 自分のことしか考えない人は勝手なことばかり言うから、そんなのを気にしていたらキリがないよ。 せっかくある力なんだから、使わなくっちゃな。」

それを聞いて聡史は、初めて自分が理解してもらえたような気がした。

それから、Cさんの助言もあって、ホームレス仲間の病気を治してみる気になった。 ホームレスは保険がないから、病気になってもよほどでない限り医者にはかかれない。 金のある人たちは病院に行けばいいんだ。 Cさんはみんなに、「 当たるも八卦、当たらぬも八卦なら、治るも治らないのも時の運。」  そう言ってアシスタントを務めてくれた。

集まって来る人のほとんどは、風邪だったり、胃腸を壊していたりしている。 というより、慢性的に栄養不足だから、みんな風邪だと思い込んでいるだけで、本当は重病の人もいるかもしれない。

とりあえず、1日に診られるのはせいぜい10人が限度。 それ以上になると、聡史の方が立てなくなるぐらい疲労が激しくなるのだ。 病気が治った人は、「 何もできないけど、気持ちだから 」 と言いながら、おにぎりを持ってきてくれたり、ボランティアの人からもらったと言って、貴重な石鹸をくれる人もいた。

ここでは、治らないからと言って文句を言う人はいない。 いや、Cさんがうまくまとめてくれるから、自分の耳に入ってこないだけなのかもしれない。 今まで問題を起こしてきた能力だったが、ここでは重宝がられて、聡史にとって大きな喜びになった。

テント生活を始めて3年ほどしたある日、数人の男性が聡史のテントにやってた。 テレビ局の人だと言う。 ドキュメンタリー番組で、聡史の事を取り上げたいと言ってきたのだ。 Cさんが出演料の交渉をすると、驚くほどの金額をはじき出してくれた。 Cさんは、
「 迷うことなんてないじゃないか。 ドキュメンタリーを撮ってもらって、患者が増えたらお金をもらって、それで生活できるじゃないか。」 と言った。

「 その金で、ホームレスたちに、たまには廃棄じゃないおいしい弁当を買ってくれよ。」 とも言った。 しかし、聡史は気乗りがせず、迷った挙句、断ることにした。
テレビに出れば有名になる。 有名になれば、それを目当てに、あの社長のような人が寄ってくるに違いない。 そう思うと、怖くなったのだ。

ホームレス仲間はみんな残念がったが、「 聡史がそれでいいなら 」 と言ってくれた。

それから1ヶ月ほどして、別の男の人がやってきた。 その人は聡史の顔を見るなり、
「 あなたに本当の仕事が近づいてます。」 と言った。

その人は自称霊能者で、お祈りをしていたらお告げがあったと言う。 その霊能者にとって聡史は会ったこともない人だったので、そのお告げが本物かどうか半信半疑だったが、会って顔を見て、本物だと確信したと言った。

「 お告げは、1週間、断食をしなさい。 その間にこの本を読んで勉強しなさい、とのことです。」

そう言って、1冊の本を手渡した。 それには、「 霊的治療、スピリチュアル・ヒーリング 」 のことが書かれていた。 あまりの突然のことなので驚いたが、聡史はなぜか、その人の言う通りにしてみようと思った。

その人に教えてもらった通り、最初の2日間は食事の量を減らしながら、お粥から重湯へと移行した。 それから水だけの1週間が始まった。 お腹が空くのは辛いが、食べ物を探しながらあちこち移動しなくていいし、トイレの回数も格段に減った。

ただ、本を読むに当たっては、聡史は中学を卒業してから本など読んでいなかったし、もともと漢字が苦手なので、まともに読めない。 これを機会に、本ぐらい読めるようになろうと、Cさんに教えてもらいながら勉強がてら読み始めた。

断食も3日目になると、頭痛と吐き気が出るようになった。 誰かと話をしていれば気がまぎれたが、1人になると、また頭痛と吐き気がぶり返して、とても本など読める状態ではなくなった。

4日目になると、あれほどつらかった頭痛も吐き気も嘘のようになくなり、体が軽く感じられるようになった。 体に羽が生えて、フワフワ飛べるような気さえする。 この日は本が気持ちよく読めるようになったので、またCさんに漢字を教えてもらいながら読んだ。

その日に読んだ中に、思いもよらぬことが書かれていた。

死は、あとに残された家族にとっては悲劇となることがあるが、死んだ本人にとっては少しも悲しいことではない。 新しい世界への誕生である。

死ぬことが喜ばしいこと?
おバアが死んだ時、オカンガ死んだ時、僕はすごく悲しかった。
だけど、喜ばしいこと?

心霊治療によって治るか治らないかは患者自身の発達程度にかかっている。
必要な段階まで魂が発達していない時は、霊界の治療家も治す方法はない。

あの得意先の社長の高田さんが治らなかったのは、本人自身の発達程度によるものだったのだろうか・・・

一口に心霊治療と言っても、磁気的なもので生理的とも言えるものと、心霊的ではあっても霊的とは言えないもの、そしてわれわれ霊による最も程度の高いもの、すなわち治療家と霊界の医師との波長が一致し、しかも患者の治るべき時機が熟している時に治療家が一切手を触れずに一瞬のうちに治してしまうものがある。

ということは、ボクが今までやって来たことは磁気的なもの?
それとも心霊的なもの?

健康体のもつ磁気だけでも治る場合がある。
その時は霊界とはなんのかかわりもない。
その方法と霊的方法との中間的なものがサイキックなもので、遠隔治療と呼ばれているものはたいていこれによる。
その上にあるのが治療家を通して霊界の医師が症状に応じた治療エネルギーを注ぎ込むやり方で、患者の身体に一切触れずに一瞬のうちに治すことができる。

ボクが今までやって来たことは何だったんだろう・・・

肉体の死はあくまで魂にその準備ができた時に来る。 それはちょうど柿が熟した時に落ちるのと同じ。

ここを読んだ時、小学校の時に集落を逃げ出すきっかけになった友達のことを思い出した。 もしかしたら、僕のせいで死んだのではなくて、この地上からの解放だったのかもしれない。 だとしたら、僕が殺したわけじゃない。 そう思うと、心の重荷が1つ取れたように感じた。

霊力の真の目的はあなた方のもとを訪れる人の魂を目覚めさせること。

魂を目覚めさせること?  どういう意味だろう・・・  そのうちに分かるのだろうか。

聡史は漢字が苦手な上に、読解力に欠けるため、内容を理解するのに苦労する。 書いてあることのどれもが難しく感じてしまうのだ。 漢字を教えてくれているCさんの方が、よっぽど理解しているに違いない。

ところが、本をある程度読み進んだ時、以前と違う感覚になっているのに気がついた。 自然と祈りたくなり、祈るとエネルギーが体中に充満するのを感じた。 エネルギーが充満する心地よさと安堵感は言葉には表せないほどだった。

5日目になると、歩きたい衝動に駆られた。
何も食べていないからそんなには歩けないだろうと思ったが、Cさんが一緒に歩いてくれるというので、歩き始めた。 すると、面白いことにさっさと歩ける。 それも、Cさんより速く。 これには歩き慣れているCさんも驚いた。

5時間ほど歩いてテントに帰ってきた。
さすがにCさんは疲れ果てて、さっさと寝てしまったが、聡史は疲れてなかった。 それどころか、更に力が増したように感じた。

6日目は1人で歩き、テントに帰ってきてからまた本を読んだ。 この頃になると、だんだんと漢字が読めるようになっていて、理解できているかどうかは別にして、何とか1冊を最後まで読み終えることができた。

7日目。 断食の最後の日だ。 この日も1日中歩き回り、テントに帰るとまた1ページ目から本を読み始めた。 今までは文字を読むのが精いっぱいで、内容どころではなかったが、この日は前に読んだ時よりも少しは理解が深まったように感じた。

8日目。 なぜか沐浴をしたいと思った。 朝早く公園に行き、水道の水で全身をくまなく洗った。 上を見上げると、木々の間からこぼれる朝陽が眩しくて、まるで自分の新しい旅立ちを歓迎してくれているかのようだった。

聡史は服を着替え、それからベンチに座って祈った。
すると、誰かが耳元でささやく声が聞こえた。

お前はこれから霊医とともに神の仕事をする
選り好みをしてはいけない
自分を律することに専念しなさい
清貧の生活を続けなさい
孤高の意志を持ち続けなさい
心配しなくてもよろしい
あとは、私たちがやります
導かれるままに進みなさい

幻聴なのか、それとも本当に誰かがささやいたのか。
とにかく、何かが変わろうとしていた。


(続く・・・)

2011 / 02 / 26 初編
2014 / 03 / 19 改編


 

 





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