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スピリチュアリズム |
短編小説 |
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第7話 あるヒーラーの一生E 再会 |
誰にとっても、一つや二つは不思議な縁だと感じる出会いがある。 聡史とCさんがまさしくそうだった。 |
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2人は親子ほどの年の差がありながら意気投合したというか、常に一緒にいてもストレスを感じることがない間柄だ。 お互いに、一緒にいるだけで安心するし、心が落ち着く。 親友であり、親子のようでもあり、互いに “ 呼吸が合う ” と感じる存在になっていた。 | ||
Cさんにはかつて家族がいた。 大手の会社に就職して社内恋愛で結婚し、子供が男女それぞれ一人ずつ生まれた。 家族4人で、いつも笑い声が絶えない理想的な家庭だった。 | ||
会社では営業に配属され、常にダントツの成績を収めた。 上司からも一目置かれる存在となり、同期の中で一番早く昇進した。 | ||
すると、お決まりのように、ある考えが頭をもたげた。 | ||
俺がこの会社を支えている、俺が会社を儲けさせている。 それなのに、会社は俺を正しく評価していない。 何億と会社を儲けさせているのに、自分の給料は数十万円しかない。 何という不公平だ。 もし今の自分の能力をもって起業すれば、相当儲けられるに違いない。 |
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そう考えて、Cさんは社内で同じような考えを持つ者を2人集め、互いに技術と情報、資本を持ち寄って起業した。 | ||
新しいことに挑戦できる日々は、希望に満ち溢れていた。 自分たちの会社が持てた喜びはひとしおで、どんな苦労も喜びに変わった。 顧客の開拓も楽しくて仕方がない。 相手に説明するにも意欲がみなぎり、そのエネルギーで顧客が少しずつ増えて行くようになると、3人で飲むお酒はこの上なく楽しく、美味しい。 そして、このペースで行けば、株式に上場できるかもしれない、そんな夢も広がった。 | ||
しかし、現実はそんなに甘いものではなかった。 1年もしないうちに、あっという間に業績不振に陥ってしまったのだ。 そうなって初めて、今まで自分たちが業績を出していたのは、大会社の名前があったからだということに、やっと気が付いた。 顧客になってくれた会社は、前に勤めていた時の個人的な得意先だったからこそなのだが、大会社の圧力があって、契約を打ち切りたいと言い出すところが続出した。 汚いやり口だと思ったが、これはどこにでもある構図だ。 | ||
3人が出し合ったお金と銀行から借り入れた資金はすぐに底をつき、仕入れ先への支払いが滞り、事務所の家賃も滞納せざるを得なくなった。 そうこうしている間に、一緒に起業した他の2人は申し合わせたように行方をくらました。 裏切られた悔しさはあるが、そんなことを考える余裕さえなくなるほど、後始末に追われる毎日になった。 | ||
Cさんは1人で友人や親戚の間をかけずりまわって金銭を調達しようとしたが、みんな同情して相談に乗ってはくれても、快く貸してくれる人は1人もいない。 客観的に考えれば、潰れそうな会社にお金はなど貸せるはずがない。 そんなの当たり前のことだ。 そう思うと、今さらながらに計画の甘さ、見識の甘さに痛みが増すばかりだった。 切羽詰まった挙句、消費者金融とヤミ金から一時借りたのが転落の始まりになった。 | ||
自己破産することも考えたが、そうすると、子供たちがかわいそうだ。 それで離婚を決意し、妻と子供たちは、妻の実家で預かってもらうことにした。 妻の父親は警察官なので、消費者金融の取り立てに苦しむこともないと考えたのだ。 | ||
そして意を決して、Cさんは1人で夜逃げをした。 | ||
自分の身分を明かせない生活は本当に苦しい。 転入転出届けが出せないから、住民票はそのままにしておくしかない。 しかし、そうすると、保険証が作れないし、運転免許証は更新できない。 どこに行っても、何をするにしても、こうした生活をしている人にとっては身分を証明するものがないというのは、生きて行く上で大きな壁になっている。 そういう面に遭遇するたびに、やはり自己破産して家族全員で再出発した方が良かったかもしれないと考えたりもした。 | ||
この自問自答を何度繰り返してきただろう。 しかし、やはりこれで良かったのだ、これしかなかったのだと、そのたびに無理やり自分で自分を納得させてきた。 | ||
住み込みで日雇いを3か月やっては、他の土地に行って日雇いをやり、また3か月やっては他に行きで、地に足のつかない生活を繰り返すしかなかった。 その間に妻の実家が引越しをしたこともあり、お互いに連絡が取れない状態になってしまった。 | ||
頑張っていればそのうち・・・ というわずかな希望もなくなり、ヤケになる日が増えていった。 これが住所不定のホームレスへと転落して行った経緯である。 | ||
それから3年たった時に聡史と出会った。 | ||
聡史とCさんは、時々、出会ったその当時のことを語り合う。 | ||
「 | あの時、Cさんはどうして僕に声をかけてくれたの?」 | |
「 | 後ろから見たら、どことなく息子に似ていたんだよ。 もしかしたらと思って顔を覗き込んでみたら、違ってたけどな。 だけど、なんだか若い奴と話がしたくてなあ。 俺も寂しかったんだよな。」 |
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「 | Cさんと出会った時、テント生活を楽しんでいるように見えたよ。」 | |
「 | こんな生活が楽しいなんてことあるものか。 だけどな、聡史がここに来てくれてからは、毎日が楽しいよ。 お前と出会って、俺は生き返ったんだ。」 |
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Cさんのように逃げる生活をしている者が一端ホームレスに身を転じてしまうと、そこから抜け出すことは特に難しい。 誰もが 「 仕事を選ばなければいいのに 」 と言うが、そんな簡単なものじゃない。 支援してくれる団体はあるが、それも限界がある。 死に物狂いで頑張っても、何ともならないこともあるのだ。 | ||
そんな体験を繰り返してきたCさんだったから、若い聡史を放っておくことができなかった。 自分はここから抜け出すことはできないかもしれないが、若い聡史ならできる。 そう思うと、何としてでも、ここから押し出してあげたかった。 | ||
Cさんは、時々考える。 もし聡史と出会ってなかったら、自分は今頃この世にはいないんじゃないか。 たとえ生きていたとしても、喜びも希望も何もなく、生きる屍になっていただろうと。 | ||
現実に、ホームレスの中には、惰性で生きている人が少なくない。 感覚がマヒしてしまうのか、それとも諦めなのか、最初は人目を気にしていても、そのうち周りからどう見られようと気にもならなくなる。 不潔なのが気にならなくなる人も多い。 お金の大切さは嫌という程わかっているのに、現実の自分から目を逸らすために、少しでもお金が入ると酒に手が伸びる。 そして眠り、また目を覚ますの繰り返しだ。 | ||
Cさんも、ほとんどこうした状態になっていた。 そんな時に聡史と出会って、生きるハリができた。 自分の子供と見間違えたことで、一瞬だが喜びを感じ、その聡史が自分のところに転がり込んできたことで、生きる希望が見い出せた。 だから、Cさんにとって聡史は、運命の人となったのだ。 | ||
聡史と暮らし始めると、それまでの生活が一変した。 いや、生活ではなくて、気持ちが一変したのだ。 希望をもつことは人間にとって大きな生きる力になることが初めて身に染みた。 誰かのために自分が動ける喜びは何物にも代えがたいものだったし、何より心が潤ったし、生きている実感が湧いた。 | ||
自分が生死を彷徨うほどの病気を治してもらった時、治ったのは偶然だと思った。 でも、いろいろと話を聞いて、その後のヒーリングの様子を見て、そうじゃないことがわかった。 | ||
それからCさんは大きな決意をしたと言う。 | ||
俺は自分の子供にはオヤジらしいことが何一つできなかった。 それどころか、俺のせいで苦労を背負わせることになってしまった。 だから、子供たちに何もしてあげられなかった代わりに、聡史の父親になって、聡史を一生助けて生きて行こう。 | ||
そう決意したからか、日が経つにつれ、聡史と一緒にいること自体、何か意味があるんじゃないか、と思うようになっていた。 | ||
聡史も同じで、希望も何もかも見失い、もうどうなってもいいやと憔悴しきってフラフラ歩いていてたどり着いたところで、Cさんに声をかけられた。 もしあの時Cさんが声をかけてくれなかったら、どうなっていただろう。 | ||
お互いに身の上を話すたびに、人の縁の不思議さを感じる。 そして、血のつながりはなくても家族になれる幸せを噛みしめるのだった。 | ||
☆ ☆ ☆ | ||
2人が出会ってから数年が過ぎ去ったが、その間にいろいろなことがあった。 行政によってブルーテントに住めなくなったのをきっかけにして、聡史はCさんと一緒に古くて安い家を一軒借りることができた。 もちろん、そこでも同じくヒーリングを行った。 | ||
屋根が付いた家に住んでいるとは言っても、生活自体はそんなに変わっていない。 相変わらずの極貧の生活だ。 変わったといえば、電話を引いたことと、Cさんが発泡スチロールを使って野菜を作り始めたぐらいのものだ。 | ||
この時、聡史は40歳を過ぎ、Cさんは70歳を過ぎていた。 父親も生きていればCさんと同じ、70歳ぐらい。 生きているのか死んでいるのか、あのとき別れたきりだから消息は全くわからない。 | ||
ある日、2人はひなびた温泉に旅行に行くことになった。 治療を受けに来た人が温泉の女将をやっていて、ぜひ来てほしいと何度も言うので、その好意に甘えることにしたのである。 | ||
2人にとっては初めての旅行。 旅館に着くと、仲居さんやら板前さんたちがこぞって出迎えに出てくれた。 今までこんなふうに歓迎されたことがなかったから、気恥ずかしいやら照れるやらで、下を向いて玄関に足を踏み入れた。 その時、聡史は1人の男の人と目が合った。 | ||
父さんだ。 まさか・・・ いや、あの人は確かに父さんだ。 |
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女将に聞いてみると、自分の母親の再婚相手だと言う。 名前を聞いたら、やはり、あの父親だった。 |
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まさか、こんなところで再会するとは・・・ | ||
聡史は動揺した。 父親の方も気がついたらしく、女将を通して話がしたいと言ってきた。 聡史は迷った。 |
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しかし、決別するにも、何をするにしても、いったんは真正面から向き合わないといけない。 | ||
「 お茶だけで話をするより、食事をしながらの方が間が持てるじゃないか。」 | ||
Cさんがそう助言してくれたので、受けることにした。 | ||
Cさんは、自分は別の場所で食事をすると言ったが、聡史が、一緒にいて欲しいと懇願したので、一緒にいることにした。 | ||
最初はギクシャクしていたが、夕食を共にしていいるうちに、わだかまりはありつつも、なんとか話ができるようになった。 | ||
そして、父親は今までの経緯をゆっくり話してくれた。 | ||
集落から出れば穏やかな日々が始まり、幸せになれると思っていた。 しかし、収入が少ない上に、聡史の祖母が他界し、母親もまた逝ってしまった。 それを全て聡史の能力のせいにしてきたのは間違っていた、と言ってくれた。 | ||
聡史が憎かったわけではない。 何とかしなければと思っても、どうしても思うようにいかない。 その苛立ちを、聡史にぶつけてしまっていたのかもしれない。 それでも聡史は自分の息子だから、ずっと一緒にいるものだと思っていた。 けれど、気が付くと聡史は出て行ってしまった。 | ||
狭い狭い、と愚痴っていた部屋だったのに、聡史がいなくなると急に広く感じた。 1人取り残された自分の顔を鏡で見たら、一気に孤独感が襲ってきたという。 | ||
父親のあまりの変わりように、近所の人たちが心配してくれたらしい。 見るに見かねた人が、惣菜を差し入れてくれたり、話しかけてくれたりしたが、家族の代わりにはならない。 そして、『 自業自得だよ 』 と言われてやっと目が覚めたという。 | ||
それからは、頑張って働いて、いつ聡史が戻ってきてもいいようにお金を貯めているということだった。 しかし寂しさには勝てず、仕事先で出会った女性と再婚して、今ここにいると言う。 |
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父親は、聡史に父親としての責任を果たせなかったこと、聡史を守れなかったこと、暴力や暴言を吐いてきたことを涙ながらに謝った。 | ||
聡史は今までCさんを父親のように慕ってきたが、実際の父親を目の前にすると、肉親の情が湧き出すのに自分でも驚いた。 血の繋がりというのは不思議なもので、かつては憎しみに近いものを感じたこともあっただけに、いざこれまでの話を聞いてみると、いつの間にかわだかまりが消えてしまっていた。 それどころか、父親もまたつらい思いを1人で背負っていたんだと思うと、その気持ちを察してやれなかったこと、息子として迷惑のかけ通しだった親不孝を詫びる気持ちになった。 | ||
父親は一緒に住みたいと言ったが、聡史はCさんと一緒に東京に帰ることにした。 その後、しばらく手紙のやり取りをしたが、間もなくして他界したという知らせを受け取った。 | ||
それからしばらくして、できれば会いたくない人がテントにやって来た。 あの社長と奥さんだ。 ずいぶん前に人づてに居所を知ったというが、なかなか会いに来る勇気が持てなかったと言う。 | ||
2人はまず、聡史に謝った。 そして、ゆっくりと話はじめた。 | ||
あの時、工場が倒産するきっかけになった高田さんのパーキンソン病は、あれから少しずつ良くなって、半年後には奇跡的に治ったと言う。 高田さんが申し訳なかったと言って、一度は閉めた工場をやり直すようにと資金を出してくれて、再開することができたのだとか。 その工場も軌道に乗り、今は息子が跡を継いだということだった。 | ||
聡史には、いくら謝っても謝り足りない、申し訳なかった、と言って、2人して泣いた。 | ||
しかし聡史は、 | ||
「 | こうなる運命だったんだと思います。 工場を出なければ、今の僕はありませんでした。 あの時は辛かったけど、僕には必要な経験だったと思います。 ですから、どうぞ謝らないでください。」 |
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それを聞いて、2人はまた涙した。 | ||
それよりもっと気になっていたのは、アパートで同室だった先輩のこと。 社長に聞いてみると、一旦は大阪の方に流れたが、工場が再開したことを小耳にはさむと、また戻って来たという。 ところが、3年ほどしたある日、得意先に印刷物を配達してから工場に帰る途中、信号無視の車に衝突され、即死したということだった。 | ||
先輩は常々、「 聡史には本当に悪いことをした、再会したらなんて謝ったらいいか・・・」 そう言ってはいつも後悔の言葉を言っていたという。 そして、聡史から盗んだお金を返さなければいけないと言って、貯金もしていた。 | ||
社長は、その貯金通帳と印鑑を持参していた。 名義を見たら、自分の名前がそこにあった。 先輩は、一時はお金を全額おろしたが、数日後に同じだけの金額を入金していた。 使えなかったのだろう。 その後、毎月少しずつ入金されていて、残高は相当額になっていた。 通帳は先輩の気持ちだから、頂くことにした。 本当に困っている人のために使うためだ。 | ||
社長は、せめてもの罪滅ぼしに、聡史の生活の面倒を見させてほしいと申し出たが、聡史は断った。 今のままでいい、いや、今のままがいいんだと言って。 | ||
社長夫妻は残念がったが、「 困ったことがあったらいつでも言ってきてほしい。 何としてでも力になるから。」 と言って、後ろを振り返り振り返り帰って行った。 | ||
ある日、Cさんの家族の消息が分かった。 ヒーリングに来た人がCさんの奥さんを知っている人だとわかり、その後の様子を知ることができた。 その人も、「 人づてに聞いただけなので、細かいことまではわからないけれど 」、と前置きして話してくれた。 | ||
元妻は再婚をしたが、10年前にすでに他界していた。 子供たちはそれぞれに所帯を持ち、子供も生まれているらしい。 しかし、今どこに住んでいるのかは知らないと言う。 | ||
幸せに暮らしているならそれでいい。 それだけが自分の願いだったから。 |
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その人が帰った後、Cさんは誰もいないところで、1人で声をあげて泣いた。 | ||
その後も、聡史はヒーリングを続けていたが、時々、ある考えが頭に浮かんでは消えるようになった。 この日も、その考えが出てきていた。 | ||
僕は、このままヒーリングを続けていくべきだろうか。 それとも、他に何か仕事があるのだろうか。 何かが足らないような気がする。 何だろう・・・ |
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散歩をしながらずっと考えていた。 でも、何も出てこない。 |
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今年の冬はとても寒くて、時々雪が降っている。 ブルーテントにいた頃も雪が降ったことがあった。 降っている間はいいが、降る前は深々と冷えて、ホームレスには辛い日々だったことを思い出した。 今は小さいが、雨風を凌げる家に住んでいる。 電話もあるし、ストーブだってある。 | ||
これでいいのかなあ。 これで良かったのかなあ・・・ |
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そう考えながら、ジャンバーのポケットに両手を入れたまま、雪が積もったベンチに腰を下ろした。 | ||
家では、Cさんが時間を気にしながら待っていた。 | ||
「 | そろそろ、約束のヒーリングに出かける時間なのに、まだ帰ってこない。 どうしたんだろう。」 |
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いつもなら、時間までには帰って来る聡史だが、あまりに遅いので、いつもの散歩道を小走りで探しに行った。 そこで、公園のベンチに座っている聡史を見つけた。 | ||
「 | なーんだ、こんなところにいたのか。 おーい、何してんだあ。 もう出かける時間だぞー」 |
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お祈りに集中しているのだろうか。 聞こえてないらしい。 近くに行って背中をポンとたたいて、顔を覗き込んだら・・・ 聡史の顔は真っ白で、息をしていなかった。 |
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「 | さ、聡史・・・ ウソだろ・・・ 本当は俺の方が先に逝くはずなのに、逆だよ・・・」 |
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救急車を呼ぶために急いで家に帰ると、電話が鳴った。 | ||
「 | 今日来てもらうことになっていた者ですけど、今まで歩けなかったのが、急に歩けるようになりました。 なので、わざわざ来て頂かなくてもよさそうです。 奇跡ですね・・・本当に奇跡です。 先生に “ ありがとう ” と伝えて下さい。」 |
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「 | はい、伝えます。 良かったですね。」 | |
Cさんは、そう答え、それから救急に電話をして、息を切らしてもう一度聡史のところに走って行った。 | ||
「 | おい、聡史、最後の患者から電話があったぞ。 治ったって言ってたぞ。 よかったな・・・」 |
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Cさんは聡史からいろいろと話を聞いていたから、“ 死 ” というものがどういうものかよくわかっていた。 聡史はいつも、 『 人は死んでも、生命は死なないんだよ。 ずっと生き続けるんだ。 』 と言っていた。 |
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目の前からいなくなったのは寂しいが、向こうの世界で生きている。 だから、また会える、と思うと悲しくはない。 何より、「 聡史はやるべきことをやり遂げたから、向こうへ旅立ったんだ。 俺も少しは手伝いが出来たかもな。 」 と思ったら、晴れ晴れとした気持ちになった。 | ||
それから1か月ほどしたある日、誰かがチャイムを鳴らした。 玄関の戸を開けると中年の男女が2人立っていた。 |
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「 | すまんな、ヒーリングはもうできないんだ。」 | |
Cさんがそう言うと、女性の方が、 | ||
「 | お父さん、お父さんよね!」 | |
「 | えっ!? 絵美、絵美か?」 | |
男性の方も言った。 | ||
「 | 父さんだ、やっと会えた! 迎えに来たんだ!」 |
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Cさんは驚いた。 そして天を仰いで言った。 |
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「 | ああ、神様はなんて粋な計らいをしてくださるんだ・・・ ありがとうございます、ありがとうございます。 心から感謝いたします。 あなた様のお取り計らい、喜んでお受けいたします・・・」 |
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人生もそろそろ終わろうとしているのに、こんな喜びの日が来るなんて、予想だにしなかった。 | ||
その翌日、Cさんは2人の子供と一緒に暮らすために名古屋に向かった。 名古屋駅では、娘の家族と、息子の家族が温かく出迎えてくれた。 |
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しばらくは娘の家に居たが、どうも落ち着かない。 結局は、聡史と暮らした家に戻ることにしたが、連絡し合える家族がいるというだけで、嬉しかった。 |
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それから1年後、Cさんは誰にも看取られることなく、聡史と暮らした家から旅立った。 意識が薄れていく中で、 |
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「 | 聡史、お前との人生、最高に面白かったよ。 ありがとう。 もうすぐ会えるな。 向こうでも、また一緒にやろう・・・」 |
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― 完 ― |