スピリチュアリズム

スピリチュアリズム

短編小説

第3話 「 霊界へ戻った話 」 B

地上人生で大成功するのはほんの一握りの人だけ、とよく言います。
人生の成功とは何か。
そんなことを一緒に考えられたらと思います。
               
ここに、マリ子という大学生の女の子がいる。 色白で美形、おまけにスタイリッシュなので、原宿を歩くと必ずスカウトされるほどの羨ましい美貌の持ち主だ。
当然だが、ナンパされるのは日常茶飯事。 しかし、マリ子はいつも笑顔で返すだけ。 見かけとは違って、軽率な行動はしない堅実な女性である。
周りの人たちは、芸能関係に進めば絶対に売れるよ、と言うが、マリ子はそうしたことにはまったく興味がない。
そのマリ子が大学を卒業したのち、友人の知り合いの男性と結婚した。 相手はごく普通のサラリーマン。 趣味も考えもよく似ていて、一緒にいても気を使わずに気楽にいられるところにお互いが惹かれた。
結婚生活は順風満帆で、やがて、2人の男の子に恵まれた。 ところが、その2人の子供に強いアトピーの症状が出た。 原因は、食品添加物なのか、それとも、大気汚染や他の要素があるのか。 とにかく調べてもらうことにした。
人によって原因はいろいろあるらしいが、息子たちの場合は、食事と強く関連していることが分かった。 そして夫婦2人で、栄養学や化学、経済学まで幅広く勉強して、どんな食品が安全なのかを模索した。
その過程で食材や調理法を変えていった結果、子供たちのアトピーの症状はしだいに出なくなった。
マり子も夫も、手を取り合って喜んだ。
2人は自信がついた。
それで、夫は会社を退職し、健康食品の会社を立ち上げることにした。
とりあえずは工場を作り、そこから出発することに。
すると、そのアレルギー用食材は大ヒット。
それに乗っかるように、自然素材で作った食器までもが売れ出した。
こうして会社が軌道に乗リ始めたので、先を見越して新しく本社を作り、販売店もいくつか出せるようになった。
当然のように、大金が転がり込むようになったけれど、マリ子は思った。
初心、忘れるべからず、よね。
初心を忘れたら、人間は傲慢になっていくだけだもの。
そして、いつもつましい生活をして、謙虚でいなくっちゃ。
人は外見より中身。
外側をいくらきれいに着飾っても、中身がなくてはすぐに化けの皮がはがれてしまうから。
それに、贅沢は敵。
贅沢したら、見えるものも見えなくなってしまうわ。
だから、私は絶対に初心を忘れない。
社長に就任したのは夫だが、開発から販売に至るまでの管理をして、実際に利益を伸ばしているのはマリ子の方だ。 マリ子自身、ここにきて自分のやるべき道を見つけ、これこそが自分の天職だと思った。
2人のことをおしどり夫婦と言う人もあれば、夫のことを宿り木だなどと陰口を叩く人もいる。 しかし、夫はそんなことは一切気にせず、美人で才能ある妻と結婚したことを誇らしく思っていた。
マリ子もまた、そんな夫が自慢だった。
会社経営は順調に進み、景気による多少の浮き沈みはあるものの、工場もいくつか増やし、販売はチェーン店にすることで店舗数は増えていった。
数年が過ぎ、2人の息子たちは大学で経済学を学び、無事に卒業した。 そして、会社の経営を把握するために、まず現場に入ることにした。
工場で食品の管理をする仕事から始まり、開発、経理など、経営に必要な経験を着実に積み上げていくことで、息子たちは共にマリ子の片腕になっていった。
ところが、夫はというと、心筋梗塞で他界してしまった。 まだ50歳を少し過ぎたばかりの若さだった。
マリ子や息子たちだけでなく、社員や得意先の人たちも、みんな悲しんだが、会社のことを思うといつまでも引きずってはいられない。 こういう時には、接待や仕事で穴を空けてはいけないという責任感が心を気丈にしてくれるようだ。 
夫の亡き後はマリ子が社長になり、息子たちはその脇を固めた。 相変わらず忙しいが、とても充実した日々だ。
そんなマリ子も還暦を迎え、それを機に自分は会長となり、会社は息子たちに任せることにした。 それでも、商品開発と販売にはまだまだ意欲的で、一線を退いてからでも何かと口を出している。
60歳をすぎたというのに、不思議とマリ子の美貌とスタイルは衰えない。 息子たちとは親子というより、姉弟のように見える。 それが世間で注目され、商品が売れる条件の一つだと分析された。
こうして順風満帆にいっていた会社だが、なにごとも栄枯盛衰は世の習いである。
マリ子は初心を忘れずにいようと決心したはずなのに、いつの間にか執着心の強い人間になっていた。 特に、外見に対する執着は強く、エステに通ったり、整形手術を受けたりして、白くてシワひとつない顔、スリムで均整のとれたボディを維持することに躍起になった。
着るもの、身に付けるものへのこだわりも、歳を追うごとに強くなっていき、日常生活の中でもブランド物を身に付けるほどになっていた。
いつしか金銭に対する考えも変わってしまった。
最初は生活できる分だけあればいい、多くの人が健康でいてくれたらそれだけでいいと思っていたのに、今では収入を第一に考えるようになったのだ。
そして自己正当化するようにもなっていた。
人間は自分に見合った生活をしなければいけないのよ。
これだけ収入があるのに、貧相な生活をしていては足元を見られてしまうわ。
会社を発展させるには、政財界の人や有名人と付き合うのが一番だし、何より、若さと美貌を保つのはもっと大切。
なんだかんだ言っても、他人は外見で判断するんだもの。
今では美貌だってお金で買える時代になったし、そのうち不老不死だって夢ではなくなるかもしれないわね。
みんな元気で長生きしてもらうことが私の夢だから、この仕事はとても大きな社会貢献の一つよ。
だから、もっと頑張らなくっちゃ。
そう言っていたマリ子が、とつぜん酷い頭痛におそわれ、救急車で搬送された。 ところが、家族が駆けつけるのも間に合わない速さで他界。 クモ膜下出血だった。
気がつくと、自分の葬儀の真っ最中だった。
といっても、それが自分の葬儀だとは気が付いていない。
前方に自分の写真が大きく飾られているのを見て、会社の式典か何かだろうと思った。 それに、みんなが黒い服を着ていたり、籠盛りや花輪なども色調が薄いことなど気にも留めなかった。
上の方から幕が下りてくると、マリ子の一生がスライドにして映し出された。 司会者は見覚えのあるアナウンサーで、コメントを読み上げていた。
マリ子さんの一生は健康食品一筋でした。
お子さんのアレルギーがきっかけとなって良質の健康食品を開発し、ご自身の若さと美しさが食品の良さを証明してきました。
15年前には銀座と六本木に店を構え、自社工場を増やし、日本各地に多くのチェーン店ができて、忙しい一生を過ごされました。
政財界を初め、いろいろな分野の著名人の方々と交流を深めてきたことは皆さんもご存知の通りです。
本日は、そうした方々も多数出席してくださり、当人もさぞや喜んでいることでしょう。
マリ子は一つ一つを納得しながら聞いていたが、前の方に細長い箱が置いてあるのに気が付いた。 気になって中を覗いてみると、中にはきれいに化粧された女性が横たわっている。 しかし、それが自分だとは気が付かない。
まわりを見渡すと、親しく付き合っている有名な財界人や芸能人がたくさんいる。 「 惜しい人を亡くしました 」 と言ってハンカチを目にあてている人たちを見て、どう慰めたらよいのか、言葉に詰まった。
すると、一人一人が自分の名前を呼んで、話してくれているのが聞こえたので、そっちの方に行ってみた。 自分のことを褒めてくれる人がいるとお礼の言葉を述べるのだが、誰も自分の方を見ようともしないし、返事もしてくれない。
会社の成功に一番力を尽くしてきた自分がなぜ無視されるのか、それもみんなに聞き回ったが、誰も答えてはくれない。
そんな様子にただただ戸惑うばかり。
その時、見覚えのある人が会場の隅にいるのに気がついた。
歳をとってはいたが、その人が誰かはすぐに分かった。
その人はマリ子が結婚前に付き合った唯一の人だった。
押しの一手を断わり切れなくなって付き合ってみたが、価値観の違いで交際は長くは続かなかった。
それより、付き合ったことを知られたくない相手でもあった。
それをきっかけに、忘れていたことが一気に思い出された。
別れた原因は価値観の違いだけでなく、マリ子がその人の子供を妊娠したことにあった。 彼は結婚してその子を生んで育てようと提案してくれたが、マリ子は自分がふしだらな女だと思われるのがイヤで、自ら望んで中絶した。 それが原因で別れることになったことを思い出した。
どうしてこの人がここにいるのかしら。
ねえ、誰が呼んだの?
この人とのことはもう時効だから、気にする必要はないわね。
そうは思いつつも、気になって仕方がない。
気を取り直して別のところに目を向けてみると、こんどは嬉しい顔がそこにあった。 その人は結婚してから付き合っていた人。 いわゆる不倫相手で、美容整形外科医をしている人だ。 お互いの家庭を壊す気は全くない。 それどころか、互いにビジネスパートナーだと公言してはばからない間柄だ。
マリ子の夫はその言葉を信じ、その外科医と懇意にするほどだったが、外科医の妻は疑いの目を持ち、嫉妬で苦しんだ。
そして、興信所を通して調べてみると、不倫関係であることはもちろん、マリ子がこの美容整形外科医との間でも妊娠し、中絶していたことまでわかってしまった。
つまり、マリ子は、夫以外の子供を2度も中絶していたことになる。
美容整形外科医の妻は2人に不倫の証拠を突きつけ、多額の慰謝料を請求した。
裁判に持ち込めば会社の信用にかかわる。 マリ子は要求されるままに支払い、美容整形外科医もまた多額の慰謝料を支払うことで離婚は成立した。
それから後は、美容整形外科医は再婚せずに、ずっとマリ子の美貌の世話をしてきたのである。
歳をとっても変わらぬマリ子の美貌とスタイルが維持できていたのは、健康食品の力も大きかったのだろうが、この美容整形外科医によって作られた方がはるかに大きいと言える。
その時、葬儀に参列していた亡き夫の友人の心の声が聞こえてきた。
ヤツはマリ子さんより先に逝ってしまったけど、ヤツにも愛人がいたし、子供まで生まれていたからなあ。
だからマリ子さんの不倫が分かっても寛容でいられたんだ。
マリ子さんはそれを知らずに他界したんだから、かえって良かったかもしれない。
だけど、いつかは認知した子供の存在が明らかになって、ご子息との間でいろいろ揉めるんだろうなあ。
すぐには信じられない言葉だったが、確かに聞こえた。
生きていた時は夫を信じきっていたので、聞いた今、裏切られた思いが憎悪となって燃え上がった。
まさか、あの人が私の不倫を知っていた!?
そんなことより、夫が不倫していたなんて、許せない!
それも、隠し子までいたなんて、そんなこと誰も教えてくれなかったじゃない!!!
あの人は、私を欺いたまま死んでしまったんだわ。
ああ。。。  なんてこと。。。
マリ子は自分のことは棚に上げ、夫の不始末への言葉ばかり吐き続けた。
私はあの人のことを愛していたから、ちゃんと始末したわ。
でも、あの人は始末しなかった。
なぜ ・・・?   どうして ・・・?
そう、私のことを愛してなかったということなのね。
いいわ、見てらっしゃい!
後で後悔しないことね。
そう言いながらも、次に2人の息子たちの様子が目に入った。
2人とも、何やら意気消沈しているように見えるが、頭の中は遺産のことでいっぱいになっているのが分かった。
私はまだ若いんだから、遺産のことなんてまだ早いと思ってた。
でも、遺言書を書いておいた方がいいのかしら。
この式典が終わったら、弁護士を呼んで書くことにするわ。
そう思っていると、別のことが見えてきた。
息子たちはそれぞれに家庭を持っているのだが、兄の方は愛人を囲い、子供まで生まれている。
弟の方は管理職という立場を利用して、かなりの金額を使い込んでいるようだ。
今まで隠されていたことが次から次へとわかり、マリ子は愕然とした。
しかし、幾ら泣いても騒いでも、誰も気にも留めないし、慰めてもくれない。
それが更にマリ子を奈落の底へと突き落とした。
この時になってやっと、この式典が自分の葬儀かもしれないと思い始めたのである。
それを確かめるために恐る恐る棺の中を覗いてみると。。。自分だ。。。
他の女性だと思って見た時は何とも思わなかったのに、今こうして自分の死に装束を見てみると、何をどう考えたらいいのかわからなくなってしまった。
葬儀が終わり、遺体は火葬場へと運ばれた。
家族は別室に移動し、自分の肉体は小さな部屋へ押し込まれた。
すると突然、四方から勢いよく火が噴出。
ゴーゴーゴーゴー、ヂリヂリヂリヂリ、ゴーーーゴゴーーー
自分の目の前で、自分が焼けていく。
あんなに自慢だった白い肌も、手も足も真っ黒になり、やがて崩れ落ち、骨が見え始めた。
マリ子はその様子を見て失神した。
気がつくと、家族が並び、箸で骨を拾っている。
誰の骨だろう・・・
あっ、も、もしかしたら、えっ?  わ た し ・・・ ?
マリ子は再び気を失った。
どれぐらい経っただろう、気がつくとマリ子は自宅に戻って寝ていた。
目が覚めて、あれは夢だったのだと思った。
なんて恐ろしい夢を見たのかしら。
自分の葬式の夢を見たなんて言っても、きっと誰も信じないわね。
そう思うと、くすっと笑いが込み上げた。
すると、リビングから何やら大きな声が聞こえてきた。
何だろうと思って見に行くと、2人の息子が言い争いをしていた。
よくよく聞いてみると、また財産の話だ。
この家は敷地が500坪あり、建坪は200坪。
購入当時、土地と建物で10億はくだらない大豪邸で、寝室が3つ、客室が2つ、20畳ほどのダイニングキッチンと、来客のための広いダイニングもある。
リビングには毛足の長いじゅうたんが敷き詰められ、映画のようなスクリーンと音響、そして優雅なシャンデリアや、豪華なソファー。
他には、客室、書斎、会議室など、ありとあらゆる部屋がある。
マリ子にとってはお気に入りの家だ。
その家をめぐって争っているのだった。
家と土地を売って現金化し、半分ずつ分けようという話をしているが、どうもうまく話が運んでいないようだった。
マリ子は、自分はまだ生きているのに、どうして財産争いなんかしているのだろうと不思議に思った。 しかし、なぜかそれ以上は頭が働かないし、息子たちに何か言ってやりたいのだが、言葉が出てこない。
マリ子は自分が死んでいることを忘れてしまっていたのだ。
人は肉体が無くなっても、霊は生きている。 生きている感覚があるから死んだことを認めることがなかなかできない。 死後の世界に対する知識を持っていれば、戸惑いは少ないが、知識がない者はうろたえるのが常だ。
財産争いは調停から裁判にまで発展し、泥沼になっていった。
当然のことだが、夫の隠し子も出て来て、泥沼はさらに悪化。
あれほど大きくなっていた会社は大きく右に傾いた。
マリ子は、自分が寝る間も惜しんで作り上げてきた会社の状態が良くないのを知って、悲しくなった。
家も豪邸過ぎて、なかなか買い手が付かない。
子供たちはそれぞれに家を建てて住んでいるので、マリ子が住んでいたこの豪邸は空き家同然になっている。
その家に、マリ子は一人ぽっち。
そして、愛おしむように、家の中を毎日のように徘徊した。
霊感の強い人が、徘徊しているマリ子を見たと言ったことから、この家が心霊スポットと称されて有名になったこともある。
それから5年経ち、会社は倒産した。 豪邸はいつまでたっても買い手がつかない。 相続税が払えないので、現物を差し出すことにした。
息子たちは時々仏壇に手を合わせて話しかけてくれるが、どれもこれも自分へのお願いばかり。 息子たちが立てる線香の煙には、多くの欲が混じり、それがマリ子をがんじがらめにして苦しめた。
生臭坊主があげるお経も意味が分からないどころか、苦痛でしかない。
・ お母さん、どうかみんなを見守ってください。
・ あなたが残してくれた会社が倒産しました。
  お願いです、助けてください。
・ 癌が見つかりました。 どうか治してください。
・ 生活が苦しいので、宝くじが当たるようにしてしてください。
・ 子供が大学に受かるように、助けてやってください。
・ 妻の体調が悪くなってきています。
  どうか健康にしてください。
それを聞きながら、マリ子は思った。
私は神様じゃないから、そんな願いごとなんて聞けるわけがない。
助けて欲しいのは私の方よ。
それなのに、どうして、私に頼みごとばかりするんだろう。
ああ、イヤだ、イヤだ。
そんな時、なにやら心地良い声が聞こえてきた。
その声の方に行ってみると、大きく成長した孫がいた。
ここは、次男の家なのね。
そして、この人はあの小さかった正人?
そう、正人よ。
間違いないわ。
それにしても、この心地良さは何かしら ・・・
長年味わったことがないわ。
孫の正人はお祈りしていた。
おばあちゃん、大好きだったおばあちゃん。
今どこで何をしてますか。
おばあちゃんの噂をよく聞きます。
あなたはもう死んだんです。
自分の回りをゆっくり見回してみて。
ほら、光が見えるでしょ。
あなたをずっと守護してきた方です。
その方の存在に気がついてください。
その方が分かったら、その方に従ってください。
どうか死んだことに気が付いてください。
愛のこもった心地よい語りかけを聞いて、自分は死んでいたんだ、ということをやっと認めることができたのである。
正人の言うとおりに回りを見回してみた。
が、何も見えない。
もう一度ゆっくり見回してみると、小さな光がかろうじて見えた。
その光をもっと良く見ようと目を凝らしたら、光はだんだんと大きくなって、その光から声が聞こえてきた。
やっと気づいてくれましたね。
あなたが気が付くのをずっと待っていました。
さあ、行きましょう。
そう言って守護霊がマリ子の手をとった瞬間、マリ子は今まで味わったことがない安心感に包まれ、やっと地上を去ることができた。
その後、他界した誰もが体験するように、自分が地上で生きていた時の映像が映し出された。
その映像を見て、どれもこれも、間違いだらけの人生だったことにやっと気付かされたのである。
地上での物質は、すべて本人の動機しだいで、成長にもつながるし、自分を貶めることにもつながる。
マリ子の場合、欲が絡むにつれて、金銭も美貌も自分を貶める方に使ってしまった。
そして、今ごろ気がついても、地上にもう一度生まれ直さない限り、やり直しがきかないことを悟ったのである。
反省を交えながら見終わった時、自分の両側に悲しい顔をした女の子が2人いるのに気がついた。
その子供たちがマリ子に話しかけた。
お母さん、私は生まれたかったのよ。
生まれて地上で成長したかった。
せっかくのチャンスをどうして奪ってしまったの?
どうして私たちを殺したの?
私たち、何か悪いことした?
マリ子は驚いた。
足がガクガクと震え、何をどう考えたらよいのか、どう応えたらいいのか、オロオロするばかり。
ま、まさか、あの時中絶した子達!?
私だけが悪いんじゃないわ。
あれは仕方がなかったのよ!!
マリ子は子供たちに謝るどころか、言い訳を繰り返していた。
何か他のことを言わなければいけないと思うけれど、言い訳以外の言葉が思いつかない。
霊界は地上と違い、嘘が隠せない世界、真実が明らかになる世界である。
そして、言い訳が許されない世界でもある。
マリ子は大きな罪を犯してしまった。
人としての心を失い、地上では合法化されているとはいっても、2つの命を奪ったことに違いはない。
子供の命より、自分の立場を選んでしまったことを後悔した。
子供のアトピーから始まった事業だったが、地上での財力を求めた結果を見せつけられ、魂にとってそれらが何の価値もないどころか、むしろ自分の魂を自分で貶めていたことに気づかされた。
そして、いくら後悔しても、罪は無くならないことを改めて思い知らされたのだった。
積み重なった多くの罪はカルマとなって加算された。 このカルマを解消するには、短い地上人生で苦しみを乗り越えることで解消するか、この霊界で気の遠くなるほどの長い時間を費やして解消するか、どちらかしかない。
マリ子は考えあぐねた結果、苦しい地上人生を選ぶことにした。 それも、財産分与のもつれから、2度も自分の親に殺されるという過酷な人生を。
 ― end ―
初編 2009 / 09 / 05
再編 2014 / 04 / 27
     


    

 




































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