スピリチュアリズム 

ちょっとスピリチュアルな
短編小説

第3話 「 俺たちは腐ったミカンなのか 」


かなり前ですが、「 金八先生 」 の中で、「 腐ったミカン 」 というのをやっていました。 とても有名ですから、覚えておられる方も多いかと思います。

中学、高校の年代は思春期真っ只中。 体は大人でも精神は子供というアンバランスな年代です。 つまり子供から大人になる過渡期。 自分のことは棚上げにして、人の粗ばかり目につく年代でもあります。
今回の内容は、そこからヒントを得て書きました。 

 ☆   ☆   ☆

ある真夜中のことだった。

「 出て行け! もう二度と帰って来るな!!」

「 ああ、言われなくたって帰ってなんか来るもんか!!」

父親と喧嘩をした佑磨は捨てぜりふを残し、改造バイクをブォンブォン噴かして家を出て行った。

佑磨は中学後半から不良仲間に入り、両親を困らせることばかりしてきた。 せっかく入った高校は自分で勝手に中退し、いつもバイク仲間と遊び歩いていた。

両親は、どうやったら息子を不良仲間から抜けさせられるのかを、あちこちに相談してアドバイスを貰ったりしたが、その通りにはなかなかうまくできない。 

ある人は真正面からぶつかれと言うし、ある人は寛容的な態度ですべてを受け入れろと言う。 またある人は、家庭内暴力にまで発展してないだけマシですよ、と言った。 

アドバイスの極端な違いに、両親は相談すればするほど逆に困り果てた。 当の佑磨は、家に帰ってくれば小遣いをせがみ、ないと言えば財布をもぎ取って出ていく始末である。 

両親はうるさく言わずにおこうと心に決めていたのに、顔を見れば心配と不満から小言が出てしまう。 すると佑磨の反抗が余計にひどくなる。 ある日、ついに父親は堪忍袋の緒が切れて、反抗する息子を殴り飛ばしてしまった。 それをきっかけにして、佑磨が家を出て行ったのである。  

それからしばらくの間、佑磨はバイク仲間のアパートを転々としていたが、それももう限界だと感じた。 みんな自分で働いたお金で生活しているから、仕事をせずにブラブラしている佑磨の存在を疎ましがるようになってきたのである。 食費だってかかるし、洗濯機や風呂だって使う。 これ以上友達に迷惑をかけられないと思い、アパートを借りることにしたのだ。

しかし、アパートを借りるにはお金が要る。 今までは万引きやカツアゲをして小遣い稼ぎをしていたが、今回はなぜか真面目に働こうという気になっていた。 そして、バイクに乗ってバイトを探しに行こうとしていた時、トラックと接触事故を起こしてしまったのだ。 不幸中の幸いとでも言おうか、命に別状はなかったが、転倒した時に右足首を骨折して入院することになった。

ある日の午後、休憩室でタバコを吸っていると、健次という中学生ぐらいの男の子が話しかけてきた。 年齢の近い2人はすぐに意気投合し、話は当然、お互いのケガの話になった。

健次は友達とサッカーをするために、自転車でグランドの方に向かっていた。 その際、いつもの道、車のあまり通らない路地を走っていた。 ほとんど車が通らない道なので、いつものようにスピードを落とさずに勢いよく左にグワーンと曲がったその時、右から走ってきた乗用車と接触してしまった。 そして健次は自転車ごと跳ね飛ばされてしまったのである。

こうした危ない走行をする人がよくいるが、健次もまさしくその類で、周りから 「よ く事故を起こさないね 」 と言われるほどだった。 

跳ね飛ばされた際、頭部をよほど強く打ったのか、その場で意識を失った。 何とか一命は取り留めたものの、体の右側に麻痺が少し出ていた。

今後の自分を考えると、健次の心は不安で一杯になっていた。 医者は、 「 麻痺は一時的なものなので、残らないでしょう 」 と言ったが、もし残ったら・・・ と思うと、やりきれない思いばかりが広がった。

あれだけみんなから、 「 危ない乗り方はやめなさい 」 と言われていたのに、粋がってスピードを出して走っていたせいだ ・・・・・  今さら後悔してもしきれない。 

ある夜のこと、佑磨は何やら胸騒ぎがして健次の病室へ行ってみた。 もう消灯を過ぎているのに、ベッドの上に健次の姿はない。 もしかしたらと思って屋上に行ってみた。 そこで、隅の方でうずくまっている健次を見つけた。

佑磨に話しかけられると、健次は胸の奥に押し込められていたものが一気に溢れ出し、「 ボクなんていない方がいいんだ! 」 と言って、ひざに顔をうずめて泣き出した。

何があったのか分からないが、とにかく気持ちをほぐそうと、佑磨は懸命に話しかけた。 そんな佑磨の気持ちが伝わったのか、健次は少しずつ落ち着きを取り戻し、ポツポツと話し始めた。

「 僕には兄ちゃんがいるんだけど、母さんは僕より兄ちゃんの方が好きなんだ。 兄ちゃんは成績もいいし、運動もできるし・・・ だけど僕は頭が悪いし、何をやってもダメで・・・ 母さんの口から出てくるのは、兄ちゃんを褒めることばっかり。 僕は叱られてばっかりなんだ・・・ この事故だって、僕が悪いのは分かっている。 でも、母さんは、兄ちゃんみたいにしっかり運転しないからだって言うんだ。 僕は母さんから嫌われてるんだ。 こんな自分なんていない方がいい。 退院したらきっと厄介者になる・・・ 」

佑磨は健次の気持ちが痛いほどよく分かった。 なぜなら、佑磨もまた両親から疎まれていいると思っていたから。

そんな話をしている時だった。 ふいに後ろから話しかけられた。

誰もいないと思っていた2人はとても驚いた。 その人は、看護士の麻紀だった。

麻紀:
ごめんね。 全部聞いちゃった。 そっかあ、2人とも寂しいんだ。 それと、2人ともご両親のことが好きなんだよね。 だからそんなふうに言っているんだ。
子供のことを心配しない親はいないってよく言うけど、あれはウソだよね。 中には自分の子供を殺しちゃう親だっているぐらいだから。 だけど、少なくとも2人のご両親は、2人のことを心配してると思うな。

佑磨:
こんな不良なオレのことなんて、心配なんてしてるものか。 俺たちは生まれてこない方が良かったんだ。 誰が生んで欲しいって頼んだんだよ。 

麻紀:
キミたちのご両親だって、同じこと思ってるかもしれないわよ。 こんな子供になると分かっていたら生まなかったのに、ってね。 こんな話知ってる? 親は子供を選べないけど、子供は親を選んで生まれてきたってこと。 

佑磨:
そんなことあるはずないよ。 

麻紀:
それがあるんだなあ。 キミはね、あの両親のところに生まれるのが自分にとって一番最適だと思って、あの人たちのところに生まれることを決心して来たのよ。 自分が忘れているだけで、両親も環境も、全部自分にとって必要だと思って選んだのよ。 私も最初はこんな話は信じなかった。 でも、私にもいろいろあってね、今はあの両親のところに生まれたから今の自分があるんだと思えるようになったの。 一時は憎んだこともあったけど、今じゃ感謝に変わったぐらい。 確かに自分はあの両親を選んで生まれてきたんだって思えるわ。 

佑磨:
看護士さん・・・麻紀さんは大人なんだ。 だから、そんなふうに思えるんだ。 オレの親は大人なのに、麻紀さんとは全然違う。 親父なんてオレの顔を見れば怒鳴ってばかりだし、お袋なんて口を開けば小言ばかり。 俺のことを心配してるんじゃなくて、世間体を気にしてるんだ。 やってらんねえよ、まったく。  

麻紀:
あのね、親といったって、まだ大人じゃない人だっているのよ。  

佑磨:
だって、親は大人だろ? どう見ても子供じゃないよ。  

麻紀:
年齢だけはね。 でも、もし本当に大人になっていたら、キミたちのワガママなんて、うまく手玉に取れるんじゃないかな。 キミたちはわざと親を困らせたくて、というより、寂しいからわざと悪ぶっていただけじゃないの?  一人の人間として認めて欲しかったんでしょ?
自分の気持ちを理解して欲しかったのよね。

佑磨:・・・・・ 

麻紀:
当たりのようね。 でも、両親だって心は子供だから、ワガママを言われたら喧嘩を売られた気分になって、言い返そうとするわけよ。 ふてくされた態度を取られれば、小言だって言いたくなるものよ。 キミたち同級生同士もそうじゃない? いつも売り言葉に買い言葉だし、自分の悪いところは棚に上げて、他人の欠点ばかりをつついているもんね。 勉強ができないのは教師の教え方が悪いと言うし、自分が投げやりなのは親がグチグチ言うからだと言うし、親は親で、子供が素直じゃないから腹が立つ、と言うし。 親だって身体は大人だけれど、心はキミたちと大して差がないわけよ。 だから、キミたちが望むようにはしてくれない、というよりできないのよね。 もしキミたちに小学生ぐらいの子がワガママ放題言ってきたらどうする? うまく受け流せる?

健次:
僕はできないと思う。 すぐカッとなるから

佑磨:
俺だったら、そんなヤツ張り倒してやるよ。

麻紀:
ほらね。 同じじゃない。 自分だってできないのに、大人だからといってそれを求めても無理というものよ。 それは学校の先生だって同じ。 年齢と心は比例しないものなの。 若くてもすごく大人の心を持っている人もいるし、年寄りでも周りに迷惑をかけてばかりの人もいるじゃない。

佑磨:
俺は学校でも家でも厄介者だったんだ。 でも、今いろいろ聞いてなんとなくわかったような気がする。 自分が悪いことをしておいて、親とか先生たちに不良のレッテルを貼るなと言うのは矛盾しているってことだよね。  

麻紀:
おおっ、君は少し大人に近づいたね。 すごいよ! そうなんだよ。 みんなそれぞれに自分勝手な気持ちを持っているけど、自分勝手だった、と気がつくかどうかが本当の大人への第一歩かもね。

佑磨:
だけど、俺たちみたいな厄介者は腐ったミカンなんだろ。 腐ったミカンが一つでもあると、他の子に伝染していくって言われたことがある。 お前たちなんてゴミだとか雑草だと言われたこともあるし。 

麻紀:
ひどいこと言う人がいるのね。 そいういうこと言う人こそ子供だと思うな。 あのね、人間はミカンでも雑草でもないの。 ミカンは腐ったら棄てられるだけだけど、人間はたとえ一時は腐っても、自分の気持ち一つで最上級のミカンになることだってできるの。 ほら、芸能人で時々いるじゃない。 昔は不良で、今はご意見番っていう人。 ゴミだってさ、うまく使えばリサイクルできるしね(笑) それと、雑草っていう名前の草花はないでしょ。 きれいに咲くバラだって、嫌いな人から見たら雑草だし、ペンペン草だって、好きな人から見たら、心を癒す花なんだから。 

健次:
そう言われてみればそうだね。 

佑磨:
みんな自分が一番正しいと思っているから、自分が気に食わない人に対して腐ったミカンとか、雑草なんて言うんだ。

麻紀:
そうそう、そうなのよ。 キミ、いいこと言うじゃない。

佑磨:
なんだか今まで全部反対のことしてたような気がする。 実を言うと、俺は、母さんや父さんと本当はちゃんとした話がしたかったんだ。  でも、うまく言えないし、言えば 「 あとで 」 って言われて適当にはぐらかされるし。 今思えば、自分の方をちゃんと向いて欲しかったんだけなんだ。 オレってバカだったなあ。 そうかあ、親たちはみんな子供なんだ。 だったら俺たちがちゃんとした大人になればいいわけだ。

麻紀:
そうよ、本当にそうだわ。 私もそう思う。 ところで佑磨君。 キミの入院費がどうなっているか知ってる?

佑磨:
バイトして払おうと思っているけど。  

麻紀:
キミは知らないだろうけど、昨日ご両親が見えて、払っていかれたわよ。 来たことが分かると佑磨が嫌がるから、内緒にしておいて欲しいって言ってらした。

佑磨:
チッ、よけいなことしやがって。  

麻紀:
あらあら、素直じゃないこと。 また子供に戻ってる。

佑磨:
あ、いっけねえ。 まあ素直に言えば、助かったー、かな。 だって、オレ金ないもん (笑) 

麻紀:
親ってね、何だかんだ言っても、子供のためなら苦労を楽しめちゃうものなのよ。 それと、健次君。 キミのご両親もそうよ。 お母さんがおっしゃってたけど、本当は君のことが可愛いくって仕方がないんだって。 キミのことは可愛いと思えるのに、なぜかお兄さんのことは可愛いと思えなくて、ずっと悩んでたんだって。 それを兄さんに悟られたくないから、わざとお兄さんの方を大事にしてきたって言ってらしたわ。 お兄さんを無理して可愛がっていたことが、君に対して裏目に出てしまったのね。 お母さんも心の整理をするのが大変みたいよ。 

健次:
知らなかった・・・  

麻紀:
2人とも、キミたちのご両親は君たちを手玉に取れるほど大人じゃないって事、しっかり覚えておいてね。

2人:
なんだか麻紀さんと話をして、ちょっと大人になったような気がする。

麻紀:
それともう一つ。 試しに自分からニッコリ笑いかけてごらん。 電話だったら見えないから、ニッコリできるでしょ。 何かが変わるわよ。

健次:
何が変わるの?

麻紀:
それはやってみてからのお楽しみ。 それじゃあ大人の仲間入りをしたお2人さん、そろそろ病室に戻ろうか。 

2人とも、その日の夜は心が落ち着き、満たされた気持ちになっていた。 そして、翌朝、2人は両親に電話をした。 ニッコリを意識したら自然と素直になれた。 今までのことを謝り、これからは頑張ってやっていくことをを約束した。 電話の向こうで、すすり泣く母の声がした。

― end ―

2009 / 07 / 12 初編
2014 / 03 / 03 改編

 

 

 






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