スピリチュアリズム 

ちょっとスピリチュアルな
短編小説

第22話
「 二卵性双生児 」

世の中には一卵性双生児という人たちがいるが、外見がソックリなだけでなく、時にはテレパシーが通じるほど意識も感覚もソックリな一卵性双生児もいるとか。

ところが、二卵性双生児となると、同じ日に生まれたというだけで、全くと言っていいほど似ていない場合が多い。

ここに、その二卵性双生児の姉妹がいる。
双子だと言うと、「 全然似てないわね 」、と決まり文句のようにこの言葉が返ってくる。
2人は現在、中学2年生。

「 同じ双子でもこんなに違うと、笑うに笑えないわね。
普通の姉妹の方がもっと似ていることが多いわ。」
なんて言う人もいるほどだ。
2人はそれぐらい似ていない。

姉の麻美(まみ)は細身で容姿端麗で派手なファッションが大好き。
成績は常に上位に位置している。
人当たりが良くて優しい物腰なので、近所ではとても良い子だという評判だ。

妹の夢美(ゆみ)はその反対で、どちらかというとポッチャリ型で、ファッションをあまり気にしない地味なタイプ。
家にいる時は、ほとんどジャージで過ごしている。

友達になれば冗談を言ったりして楽しませてくれるのだが、人見知りなのと口下手なのが重なって、あまり好印象は持たれない。
容姿にしても、姉の麻美が美形なので、妹の夢美はどうしても見劣りがしてしまう。
それに、成績はいつも中の下。

この二卵性双生児の麻美と夢美は、何かにつけて周りから見比べられる。
これは双子に生まれた宿命なのかもしれない。

ある日、近所で火事があった。
おバアさんが1人で暮らしていた家だったので、誰もが火の不始末だと思っていたが、現場検証の結果、どうやら放火らしいことが分かった。
家族がなく、友達も少なく、近くに親戚はいるが、1人でひっそりと寂しい余生を送っている人だった。

おバアさん1人では火事の後片付けが大変だろうということで、町内で片付けを手伝うことになった。
家の半分は焼け残ったが、消防車の放水で水浸しになったので、使えるものはほとんど残っていない。

麻美と夢美の両親が後片付けを手伝いに行くと言うと、姉の麻美は、「 私も行く 」 と言い、妹の夢美も、「 それなら私も手伝う 」 と言って、2人は両親と一緒に、おバアさんの家の後片付けに出かけた。

姉の麻美は、大人の言うことを聞いてよく動き、手伝っている。
妹の夢美はおバアさんと話をしながら、その近くにあるものを片付けている。

麻美が言った。

「 夢美、みんな頑張ってやっているんだから、手抜きしないでさっさとやってよ。」

「 やってるつもりなんだけどなあ。」

と応えたものの、話をしている方が多いかもしれない。
おバアさんも夢美と話していたので、ばつが悪そうに舌をペロッと出して肩をすぼませた。

その仕草があまりにも可愛かったので、夢美はつい笑ってしまった。
それを見て、麻美は 「 もお、仕方ないなあ 」 と言いながら、両親の方に行ってしまった。

1人でやれば数日かかる後片付けも、大勢でやったから半日で片づけられた。
そして、おバアさんはみんなにお礼を言い、車で10分ほど離れている妹の家で世話になるためにタクシーに乗った。

周りにいる人たちはまたしても話していた。

「 お姉ちゃんの麻美ちゃんは可愛いし、お手伝いもよくするし、本当にいい子。
でも、妹の夢美ちゃんはお姉ちゃんに比べると、何かにつけて見劣りがするわねえ。
双子なのに、どうしてこんなに違うのかしら。」

またいつもの決まり文句だ。
言う方はそれぞれが1度ずつでも、5人が言えば、聞く方は5回聞くことになる。

母親はずっと不思議に思っていた。
自分は子供たちを分け隔てなく育ててきたつもりだ。
それなのに、どうしてこんなにも違うのだろうと。

姉の麻美は誰からも褒められるほど良い子だし、機転もきくし、勉強もできる。
しかし、人目に良く映ることは頑張るが、評価が得られないことにはあまり興味を示さないという、見かけによらず合理的な性格をしている。

それに、少々浪費、といっても小遣いの範囲内なので浪費とは言えないかもしれないが、貯金をするということがない。
家族の誕生日には、麻美はプレゼントを一生懸命選び、これなら喜んでくれるだろうと思うと、高いものでも買ってしまう。
それに対して、妹の夢美は金銭に関しては堅実派で、必要最小限の物しか買わないから結構貯まっている。
家族とか友達の誕生日には、夢美はいつも折り紙でブーケを作り、それを送ることに決めている。
夢美としては心を込めて作ったつもりなのだが、麻美はからすると、

「 また折り紙で作った花ぁ?
安上がりでいいけど、たまにはちゃんとしたプレゼントを贈ったらぁ。」

ということになる。

母親から見ると、夢美は気持ちの優しい子なのだが、友達からはケチだと言われるし、他でもいろいろな面で要領が悪いところばかりが目立ってしまう。
しかし、人が見ていようと見ていまいと、自分で必要だと思ったことは、いくら反対されても貶されても、気にせずとことんやるところがある。
成績は今は良くないが、必要に迫られたら麻美より良い成績を出すかもしれない、とお母さんは思っている。

火事から数日たったある日の午後、火事で引っ越しをしたおバアさんがお礼を言いたいといって訪ねてきた。
姉妹は学校に行って不在の時間だった。

お母さんは、おバアさんを居間に招き入れた。
火事で、それも放火ですべてを失ってしまって、相当なショックを受けているだろう。
妹の家で世話になっていると言っても、居心地はどうなんだろう。
そうしたことが気になっていたので聞いてみた。

「 妹と言ってもずっと離れて暮らしていたから、一緒に住むとなるとけっこう気を使ってねえ。
それでも、みんな優しくしてくれるから有難いですよ。
自分の子供は遠くにいて、狭いアパート暮らしなので、とても私を引き取る余裕はないって言うんです。
もちろん、私だって子供に世話になるつもりはないから、今まで1人で頑張って来たけど、今回の火事で人生の大半を失ったような気持ちです。
貯金もそれほどあるわけじゃないし、年金だけが頼りの暮らしでしたから、。
でもね、妹が一緒に住んでもいいと言ってくれたので、助かりました。
妹のところは建物が大きくて、子供たちも独立しているから、空いている部屋がたくさんあるんですよ。
私が我儘さえ言わなければ、ずっと住まわせてもらえるでしょう。
有難いと思わなくっちゃね。」

お母さんはそれを聞いて、少しホッとした。

おバアさんは、自分はもう歳だから火事だけは気を付けていたと言う。
だから、まさか放火で家財を失ってしまうとは思ってもみなかったらしい。
火事が起きた日の夜はビジネスホテルに泊まったのだけれど、睡眠剤を飲んでも眠れなかったそうだ。

火事の翌日、どうやって後片付けをしようか途方に暮れていた時に、大勢の人が後片付けに来てくれたのはとても嬉しかった。
心では感謝しているのに、あまりのショックに挨拶の言葉も、お礼の言葉さえも口から出てこなくて、出るのは涙だけだったので皆さんに申し訳ないと思っていたと言う。

そうしたおバアさんの気持ちを察知したのか、夢美は心を解きほぐそうとして話しかけ、気持ちを和らげようとしてわざと変な顔を作ったり、手を握って歌を歌ったりしてくれたと言う。
夢美のおかげで、おバアさんは、疲れて凍っていた心が少しずつ解きほぐされて、やっと我に返ったということだった。

おバアさんと夢美は以前からよく話していたらしい。
学校の帰り道、おバアさんが草取りをしていると手伝ってくれたり、花の世話をしているとその花のことで話が弾んだりして、いつも楽しい時を過ごしていたと嬉しそうに話してくれた。

それだけでなく、昨日、妹の夢美が引越し先までわざわざ訪ねて来て、

「 おバアちゃんは火事で全部なくしてしまって困っているだろうから、これをあげようと思って。」

と言って、きれいにリボンをかけ、丁寧に包装された箱を自分の目の前に差し出した。
おバアさんは、今の若い人のように、人がいるところで包みを開けたりしないから、その時はお礼を言っただけで、中身が分かったのは夢美が帰ってからだった。

リボンを解き、包装紙を外して箱のふたを開けたら、そこにはきれいな天然石のブレスレットと手紙が入っていた。
おバアさんはそのブレスレットの入った箱を取り出し、お母さんに見せてくれた。
その中には石の説明書もはいっていて、おバアさんが石のことを説明してくれた。
きっと、ブレスレットの石を見ながら説明書を何度も読んだのだろう。

ブレスレットにはいろいろな石が繋げてあり、道を示す石、疲労回復の石、健康の石、運気が上がる石、長生きできる石、幸せになる石、精神力や運動機能が良くなる石、困難を克服する石、成功と繁栄の石、免疫力アップの石、金運アップの石など、本当に色とりどりだ。

1つとして同じ石は使ってなかったからデザイン的には今一つなのだが、おバアさんはそれが嬉しいと言った。
面白いのは、悪霊退散、恋愛運向上の石まであると言って嬉しそうに笑った。

手紙には、パワーストーンに込めた夢美の思いが綴られていて、欲張りかもしれないが、いろいろな願いを込めて石を繋げてもらったと書いてあった。

おバアさんは、石で運勢が変わったり、運勢が上がったりすることはないのは知っていたが、自分のことを一生懸命考えてくれた夢美の気持ちが本当に嬉しいと言って、ブレスレットと手紙を抱きしめた。

「 私ね、今まで神様なんていないと思って生きてきました。
どんなに苦しい時でも、助けてくれる人なんて誰もいなかったから、いつだって1人で頑張って来たんです。
だから、火事でこれからどうしようか困っている時に、近所の人たちが手伝ってくれて、夢美ちゃんや麻美ちゃんたちが手伝ってくれて、手紙と一緒に私のことを気遣って作ってくれたブレスレットまで・・・
神様は本当にいるんですねえ・・・
火事はつらい出来事だけど、それと引き換えに大きな宝物を頂きました。」

そう言いながら、ハンカチで涙を拭った。

その話を聞いて、お母さんは、

「 今まで麻美を褒めてくれる人はいても、夢美を褒めてくれる人はいませんでした。
あの子は今までケチだと言われていたけれど、大切な人が困っている時にはポンと投げ出せる子だとわかりました。
夢美にこんなに温かい心があったなんて、それを知ったことがとても嬉しいんです。
おバアさん、よくぞ知らせてくださいました。」

おバアさんは、

「 夢美ちゃんがくれたブレスレットと手紙は、何にも代えがたい宝物です。
その代わりといってはナンですが・・・結局、私は自分の気持ちをこんなふうにしか表せないんですよ。」

そう言って、申し訳なさそうに木箱を取り出した。

「 これは私がずっと大切にしてきたもので、火事の時に持って逃げた物の1つです。」

蓋を開けてみると、きれいな色の陶器で作られた天使の置物が1対入っていて、2人に1体づつあげてほしいということだった。

帰り際に、

「 そうそう、名無しの手紙が郵便受けに入っていたんですよ。
これも夢美さんなんでしょうかねえ。」

そう言ってその手紙を見せてくれた。
お母さんはそれを見て驚いた。
それは麻美の字だったからだ。

手紙には、

「 自分には何もできないから、せめてお祈りだけでも毎日します。
おバアさんの心が休まりますように、ずっとずっと祈ってます。」

というような内容が書かれていた。

「 おバアさん、これは麻美ですよ、麻美の字です。」

それを聞いて、おバアさんは顔を覆って泣き出してしまった。

「 ああ、神様がもう一人おいでなさった。」

母親は、おバアさんが帰って行く後姿を見て、胸が痛くなった。
タクシーで来たのだと思っていたが、老人車を押し、足を引きずりながら、やっとの思いでここまで歩いてきたのが分かったから。
母親は、複雑な思いだった。

普段は堅実でも、いざとなったらポンと思いの限りを込めることのできる夢美の潔さに、母親の方が考えさせられた。
麻美にしても、人に良く見られることしかしない子だと思っていたが、人知れず愛を向けることができる子だと知って、嬉しくなった。

2人とも、よくぞここまで育ってくれました。
神様、あなたが授けてくださった子供たちは、あなたのお蔭でこんなに純粋に育ってきています。
本当に有り難うございます。
お母さんは天を仰ぎ、神様に心から感謝の言葉を述べた。

そして、この日を境に、この双子はお母さんにとって、口にこそ出さないが、今まで以上に自慢の娘たちになった。
そして、その時、同じ日に生まれてなぜこんなにも違うのかという答えがわかったような気がした。

一卵性双生児は同じものを持っている2人だが、二卵性双生児は陰と陽なのだと。
陽は陰があるからこそ存在が光り際立ち、陰は陽の光を得て力を発揮できる。

それ以上に、2人の違いは前世が大きく関わっているにちがいない。
前世が大きく関わっているとするなら、今の人生は来世に大きく影響するのだろう。

そう思うと、子供を育てることは、今世だけでなく、来世の土台をも作り上げていることになる。
お母さんは、子供を産み育てる責任の大きさを改めて大きく感じた。

おバアさんにとってブレスレットや手紙が宝物になったのと同じように、この2人にとって陶器の人形は宝物になるだろう。
これから辛いこと、苦しいことが幾度となく訪れるだろうが、その時にこの人形を見れば、きっと今回のことを思い出して勇気づけられるに違いない。

お母さんがそう考えていると、2人が帰ってきた。
陶器で作られた天使の人形を見て、それもおバアさんからのプレゼントだと知って、2人はとても喜んだ。

皆でおバアさんを手伝って勇気づけたはずだったのに、気が付けば、おバアさんがこの上ない大きな幸せを運んで来てくれていたのだ。

誰かのために一生懸命になることは、自分を一番幸せにすること。
苦しみから大きな教訓が得られ、教訓を得ることで本物の幸せが得られる。

お母さんは、以前どこかで聞いたことのある言葉を思い出し、2人にそれを伝えた。

たとえ悪い境遇に置かれることが有っても、自分の思い一つで幸せが広がって行くことを確信して、2人の娘とお母さんは、それぞれの立場で深い安堵感に包まれた。

― end ―

2011 / 05 / 28 初編
2015 / 03 / 03 改編

 

 

 










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